
マンチェスター・ユナイテッドに所属している香川だが、今季はポジションを確保できず、本田もミランで苦闘していた
ブラジル・イトゥ、最後の取材にて
6月25日、ブラジル・イトゥでの最後の取材。その場に現れる選手たちの表情は、さまざまだった。笑顔を見せる者は当然いない。前日のコロンビア戦で味わった悔しさを引きずるように感情を露わにする選手、一晩明けて冷静に大会を振り返る選手、中には長友佑都のように、思わず涙してしまう選手もいた。日本の選手たちは皆、自分たちが抱いていた自信が力なきモノだったという事実を、痛感せざるを得なかった。
一人、スーツ姿で表れた本田圭佑。彼は自責の念にかられていた。その中でも冷静に敗因、課題を語ろうとした姿は、打ちひしがれた中でもどこかで凛とした自分を保たなければならないというプライドのように見えた。
コロンビア戦、日本は内容では善戦したという声も少なくない。自分たちの現状で、今できるベストに近いプレーを見せた。アルベルト・ザッケローニ監督も、客観的なデータを用いてこう話す。「昨日のコロンビア戦のデータを見ても、ポゼッション、シュート、FK、CK、パスの成功率、すべてで相手を上回っていたにもかかわらず、結果は1-4だった。何か足りないモノがあるということ」。
本田は、その足りないモノについて、大会前はあえて封印していた考えをあらためて明かした。
「やはり、個じゃないですか。個と言ってもすごく抽象的なんですけど。うーん…(長い沈黙)まあ、作業としては多過ぎますよね。自分たちが持つ個をすべて改善できるわけではないし。ただ、個の集合体でコロンビアがああいうふうに4点を取るわけなので。もちろん彼らも皆同じようなスタイルでやっているわけではなくて。同じような武器があるわけでもなくて。その武器の質と精度というものが、われわれの個以上に上回っているという現実。それを補うために、われわれが相手以上に攻撃で人数をかける、人数をかけないと、自分たちらしさが出せないことも知っている。それを今回なかなか出せなかった。本当に1年、2年で解決できる問題なのか。そこを自問自答しながら、何を努力するべきなのかということからおそらく考えていかないといけない。4年間やってきても、大きく間違っていた。結果としてついてこない難しさを感じた」
選手たちが感じた「壁」
格上相手に個で上回れない。本田はそれを「大会前から分かっていたことだった」と話したが、それはおそらく日本代表を見守る誰もが気付いていたことだった。ブラジルのピッチで、われわれは日の丸を背負う選手たちがあらゆる局面で、相手の個人能力に屈する場面を見せ付けられてしまった。
遠藤保仁もこう話す。「攻撃的な姿勢をチームとして持つことが、今回の日本にとってはまず大事だった。ただ、やっぱりすぐにメッシやロッベンみたいな選手が出てくるわけでもなく、そういう個人で切り崩していくところにまだ壁があると感じた」。
W杯に参戦した23人中、12人の選手たちが欧州でプレーしている。前回大会は国内のJリーグ組を中心に構成されていたことを考えると、この4年間で確実に移籍市場やピッチ内における日本人選手の存在価値は上がっているのである。マンチェスター・ユナイテッドやミラン、インテルでプレーしている選手が日本にはいるという事実を耳にし、現地のブラジル人の多くが驚きの表情を見せていたことが印象的でもあった。
ただ、彼らの多くは、残念ながらそれぞれのチームで絶対的な存在とはなり得ていない。もちろんコロンビアやギリシャ、コートジボワールの多くの選手たちにも同じことが言えるかもしれないが、日本はその相手の選手たち以上に個の能力の脆弱さを突き付けられたのである。
欧州でプレーするだけではもうダメ
ここからの4年、日本が次回のロシアW杯にて本気で勝ちに行くためには、ある確固たる覚悟が必要になってくる。海外でプレーする、海外組という立場にいるというだけでは、もう物足りないのである。
「今回の自分、自分たちに対して? もう怒りや悲しみを通り越して、虚しい」
取材の席に着いた吉田麻也は、熟考した後に開口一番、こう述べた。そして彼は、自分に言い聞かせるようにこう語った。
「やっぱり、攻撃的なサッカーをやっていけば、僕らDFは相手のカウンターに対してどこかで個で守らないといけない場面が出てくる。もちろん攻撃だって、停滞したときに打ち破る個の能力が必要なことだってある。みんな、まだまだ力不足なんだと。いま、以前に比べて多くの選手が欧州の舞台でプレーしている。でも、もうそれだけではダメ。そこで試合に出続けて、活躍し続けて、チームの中で重要な選手になっていく。そういう日本人選手がこれから何人出てくるか。それが、代表全体が次のステージに行けるか否かの境になるように思う」
本田が言うように、単に“個”と言っても、それはぼんやりとした抽象的な要素に感じられる。では実際に、どのようにその“個”を格上げしていくのか。4年後のW杯でさらに上に行くための短期的な視点で言えば、日本人選手が欧州各クラブで中心選手として振る舞えるようになることが状況を激的に変化させる一つの道なのかもしれない。
負けてもなお、選手たちは純粋にこう叫んでいた。「自分たちが自信を持っていたことは間違いなかった」。ただその“自信”は、他の国の選手たちが抱いているような“確信”ではなかった。香川真司がマンチェスター・ユナイテッドで代えの効かない存在になっていけるのか、本田がミランで完全復活を遂げられるのか、吉田がサウザンプトンでレギュラーを奪回し、プレミアの舞台でディフェンスリーダーへとのし上がっていけるのか…。4年後、いま以上に彼らの背中が大きく見えたとき、日本の“自信”は今度こそ揺るぎない“確信”となるに違いない。(西川 結城)