悔しい現実を突き付けられたブラジルW杯。しかし日本にはブラジルの地を踏んだ選手以外にも、大きな可能性を秘めた選手たちが潜んでいる。第2回目となる今回は豊富な人材がそろう2列目。本田圭佑や香川真司といった選手たちを脅かす存在は出てくるのだろうか。まずは、ブラジルW杯でバックアップメンバーに選ばれた19歳の南野拓実の可能性を探る
◆“うまい選手”、“速い選手”から脱することができる選手は
いまの日本の2列目に必要なのは“うまい選手”や“速い選手”ではなく、“点が取れる選手”だ。
現在の日本で、これだけ豊富な人材を抱えるポジションはない。育成年代でも次々と才能豊かな選手が出てきている。ただ、その多くが“うまい選手”、“速い選手”。“点が取れる選手”となると限られてしまう。スピード、テクニック、パス、ドリブル、それぞれにスペシャルな武器がある。
ただ、サッカーは得点を争う競技であり、その武器を得点につなげなければ意味がない。個人個人の武器があって、それをいかに得点という“結果”につなげられるかが、ロシアへ向けての選考基準になってくるだろう。
その中でまず期待したいのが、ブラジルW杯でバックアップメンバーに選ばれた19歳の南野拓実(C大阪)だ。昨季はJ1リーグで29試合5得点の成績を残し、Jリーグベストヤングプレーヤー賞に選ばれた。昨年のマンチェスター・ユナイテッドとの親善試合で見せたようなミドルレンジからのシュートも持っている。4年後に向け、その得点力にさらに磨きをかけてほしい。
得点力という意味では昨季、J2で18試合19得点という戦績を残した宇佐美貴史にも期待がかかる。今季はここまでけがのため出場機会が少ないが、J1再開後からどんなパフォーマンスを見せてくれるのか楽しみだ。
18年を意識し、海外に旅立った原口元気ももちろんその候補者だろう。初の海外移籍でどんな成長を遂げるのか。そのほかにも宮市亮、長澤和輝、野津田岳人など2列目のポジションは多士済々。さらに大学生はもちろん現在の高校3年生も4年後には21歳になっており、候補に入ってきてもなんらおかしくない。激しいポジション争いを勝ち抜き、誰が4年後のロシアの地を踏むのか、いまから楽しみだ。
MF 南野 拓実(C大阪)
1995年1月16日生まれ、19歳。174cm/67kg
わずかに届かなかった19歳の挑戦
1分2敗に終わったブラジルW杯。“攻撃”を旗印に掲げて走り続けたザック・ジャパンだが、その結末はあまりに残酷だった。日本の挑戦を、日本に残った選手たちも見ていた。C大阪の和歌山キャンプ中だった南野拓実も、「一人の日本人として応援している」とTVで視聴した。2カ月前まで、彼はブラジルでプレーすることを本気で目指していた。関係者によると、アルベルト・ザッケローニ監督は南野のことを高く評価していたという。
4月初旬の代表候補合宿にも選出され、周囲から期待と注目も集めた。だが、5月12日。ブラジル行きは叶わぬ夢となった。W杯メンバー発表の日、南野はACLラウンド16第2戦を翌日に控えた中国・広州にいた。「結果を残せていなかったので、メンバー入りできなくても当然だと思った」。選から漏れた事実を冷静に受け止めた。いや、漏れたという表現はふさわしくない。19歳の挑戦はわずかに届かなかった。その後、大会ベスト4が出揃った今月7日、今大会で最も印象に残った得点を問われると、「コートジボワール戦での本田選手のゴール」と迷いなく答えた。「ゴールの瞬間、何かが起きると思った。自分もそんな選手になりたい」と。4年後のロシアW杯へ向けた戦いは、すでに始まっている。
香川、柿谷をも超える素材
ちょうど4年前。南アフリカW杯直後、2010-11シーズンにおける香川真司のドルトムントでの鮮烈な活躍は、C大阪に大きな影響を与えた。1年後には乾貴士が続き、2年後には清武弘嗣も海を渡った。そして今夏は、4歳からC大阪で育った“至宝”柿谷曜一朗が岐路を迎えた。
彼らに続く南野も、トップ昇格が決まった2012年10月の記者会見ですでに、「ユースの海外遠征でドルトムントのスタジアムを見学したとき、8万人の大観衆の中で自分もやってみたいなと強く思った」と口にするなど、海外志向は強い。桜に受け継がれるアタッカーの系譜。並み居る先輩と比べても、プロ1年目の昨季、南野が残した実績は突出している。高卒ルーキーとしてはクラブ史上初の開幕先発をつかみ取ると、29試合5得点と結果を残した。
J1第14節・磐田戦で決めたリーグ戦初得点は、大久保嘉人が保持していたクラブのJ1最年少得点記録(18歳10カ月)を更新する18歳と5カ月での得点だった。ブラジルW杯メンバーに選ばれた香川や柿谷が、ルーキーイヤーではそれぞれ、出場なし、1試合出場に終わったことを考えれば、並の新人ではないことが分かる。
それを証明する一戦もあった。7月に行われたマンチェスター・ユナイテッドとの一戦だ。東アジア杯・中国戦での柿谷の1得点1アシストの活躍を受け、「自分たちもマンチェスターU戦で結果を残して、向こうに刺激を与えたい」と話して臨んだ試合で、南野は強烈なインパクトを与えるゴールを奪ってみせた。それは、“主役”である香川の存在感をも上回る一撃だった。当時のC大阪の指揮官、レヴィー・クルピも、「将来的に日本を代表するアタッカーになるということを多くの人々の前で示すことができた」と手放しで絶賛している。
目の前の目標を一つずつ
プレースタイルとしては、果敢なドリブル突破にネットを射抜くシュート技術だけではなく、巧みに前線で起点を作りながらゴール前でコンビネーションに絡むプレーもうまい。いわば、オールマイティーなタイプであり、アタッキングサードでの怖さが南野の最大の魅力。C大阪での練習中のミニゲームでも、まずはゴールを目指す。その姿勢は徹底している。
ただし、決して攻撃に偏った選手ではない。プレスもサボらず、攻守の切り替えも速い。このあたりの意識の高さは、プロ入り時にすでに身に付いていたものだった。
「世界で戦う上では当たり前」。3年間、育成で南野を鍛え上げたC大阪U-18の大熊裕司監督の指導方針が色濃く反映されている。高校1年生のとき、「守備をやると自分の良さが出ない」と訴えてきた南野に対し、大熊監督は、「トップチームに上がっても、片方だけの選手では難しい。献身的な守備の意識をどこかで持ちながらやってほしい」と説き続けた。
3年間、南野は監督の言葉を噛み砕きながら、守備の意識を高めると同時に、長所も失うこともなく成長した。プレーを支えるメンタルもプロ向きだ。負けん気の強さは全Jリーガーの中でも1、2を争うかも知れない。今季のJ1第4節・鹿島戦では、小笠原に対して猛烈な勢いでチャージをしかけた。攻撃では、突き進み過ぎるその姿勢が時にアダとなる場面もあるのだが、委縮してしまっては魅力も半減。状況判断も大事だが、“攻め”の姿勢は失ってほしくはない。
彼は現状における「危機感」をよく口にする。高みを目指して妥協しない姿勢は、常に「もっと」と渇望感を隠さなかったC大阪時代の香川にも通じる資質である。
「年齢は関係ないと思っている」というフレーズも彼の口癖。「いまの僕と同じ歳でも、欧州で活躍している選手は大勢いる」と。今回のブラジルW杯で言えば、イングランド代表のスターリングがリバプールで、クロアチア代表のコバチッチがインテルで活躍している。
また、アカデミー時代から、「目的意識をハッキリさせることも意識させていた」(大熊監督)ため、中・長期的な目標設定もしっかりしている。4年後のロシアW杯ではメンバー入りのみならず、主力を張る姿も期待されるが、「まだ4年も先のこと。そこまでの過程を一歩一歩大事にしたいし、目の前の目標を一つずつクリアしていきたい」と気負いはない。
当面の目標は、10月に行われるAFC・U-19選手権。ミャンマーで開催される同大会は、15年のU-20W杯につながる重要な大会だ。日本は現在、U-20W杯の出場権を3世代連続で逃している。そのため、今回の世代での出場権獲得を至上命令とし、南野は一つ上のカテゴリーにあたる手倉森ジャパンには呼ばれず、U-19日本代表に専念している。
「五輪は意識しているけど、U-19も大事。自分の代で突破して世界大会に挑むことも自分のモチベーション」と常々語る。さらに、その後は16年のリオデジャネイロ五輪へと続く。この先、彼の前にはいくつもの胸躍るステージが待ち構えている。「成長するかしないかも自分次第」。自らが置かれた状況について、南野はこう話す。
試合を決め切る選手になる
世界大会から得ることのできる重要性を、彼はすでに知っている。11年のU-17W杯。中田英寿氏や宮本恒靖氏らが中心となって勝ち進んだ93年以来、18年ぶりにベスト8に進んだこの大会からの帰国直後、「やるべきことをやれば、フランスにもアルゼンチンにも自分たちのサッカーが十分通用すると感じることができた」と、当時16歳の南野は話していた。
個人としては不本意に終わった大会だが、ベスト8で敗れたブラジル戦も含め、世界大会でしか得られない経験は何ものにも代え難い。準々決勝で敗れたブラジル戦で得た課題として、「失点は崩された感覚はなかったけど、個の力で打開された。逆に、日本は相手にブロックを作られたとき、ゴール前まではパスをつなげるけど、パス回しがパターン化してしまった。もっと個で打開する技術を身に付けたいし、ゴール前を固められてもしかける意識を持ちたい」とも話していた。
それは、まさに今回のブラジルW杯でも日本が痛感した課題であり、これからも永続に求められる要素でもある。現在の南野のテーマは、「試合を決め切る選手になること」。これからの4年間でどこまでたくましく、大きくなれるか。順調に成長を重ねた先に、ロシアの大地を切り裂く南野の姿が見えてくる。(小田 尚史)