一振りで歓喜と失望の渦を巻き起こした。アルウィンに駆け付けた岡山サポーターにとって背番号9は天使であり、ホームの松本サポーターにとっては悪魔だっただろう。もっとも、偉大なストライカーであればこそ、多くの人に愛され、さらにもっと多くの人に憎まれるモノだ。
今週、約4カ月のリハビリを終えてチームに合流した荒田の姿からは「喜びにあふれている感じがする。戻って来た!点を取りたい! っていう本当にピュアな欲求がプレーに出ている」(影山監督)ことが誰の目にも微笑ましく映った。そして指揮官はそんな荒田を見て「こういうときにポンと出すと点を取ったりするんだよ」と予見しながら「まだ今週は無理だろうけどね」と話していた。
しかし、影山監督は今節、荒田をベンチ入りさせた。荒田自身も「正直、ビックリした」と言うが、さらに驚くことに同点に追い付かれた直後、「勝ち点1でいいという気持ちには僕も選手たちもまったくなれなかった」と影山監督は荒田を呼び寄せた。
そして、「シュートのところだけを評価して(ピッチに)入れてくれた」と、自分の役割を理解してピッチに入った荒田は、指揮官の期待に応えてみせる。試合終盤に松本のCKが何度も続いた窮地を全員で守り抜いた岡山は、力を振り絞ってカウンターをしかける。「スピードで行こうかと思ったが、遅かった」。そう苦笑いした荒田だが、「それからちょっと緩急を付けたら、(相手DFの)股が空いた」。冷静にDFと駆け引きし、持ち前のシュートセンスを発揮した荒田の非凡さは、「持っている」(影山監督)としか表現できない。「ここぞ」というときに点を取る。それが荒田智之というストライカーだ。
「こっからJ1昇格に向けて頑張りたい」と次戦を見据えたJ1昇格への切り札は、大きな目標へ突き進む岡山にとって、何よりも頼もしい。(寺田 弘幸)
荒田 智之(あらた・ともゆき)
1985年10月3日生まれ、28歳。静岡県出身。178cm/72kg。清水JY→清水東高→専修大→水戸→磐田→千葉を経て、13年に岡山加入。J1通算26試合出場1得点。J2通算135試合出場48得点。