この日も2得点を挙げたニューエースは、試合後も多忙を極めた。
約1時間のインタビュー取材を終え、武藤はロッカールームから駐車場までの廊下を歩きながら口を開いた。「ちょっと戸惑っていますよ、いまの状況に」。
現在、FC東京の試合には、すべてのキー局のテレビカメラがやってくる。小平の練習場にも、連日さまざまな媒体の取材者が現れる。武藤本人にとってもクラブにとっても、当然有り難いこと。ただその思いとは別に、自らの評価が急激に上昇していくことに、少し付いて行けないといった感情もある。
もちろん、そうしたムーブメントは自らが起こしたモノ。代表選出後も武藤が活躍し続けていることで、注目の熱は冷めることを知らない。
ハビエル・アギーレ監督が視察したこの試合。武藤は前半のうちに2得点。いずれも味方の手厚いお膳立てあっての得点に、謙虚さを貫く彼は感謝を忘れない。
試合後、メキシコ人指揮官は帰り際に一言。「日々進化している武藤は、特に素晴らしかった」。それを本人に伝えると、「本当ですか? その言葉はすごくうれしいです」と表情を崩した。
進化の軌跡はくっきりと存在する。リーグ序盤戦は威勢の良いドリブルこそ目立ったが、それだけの選手でもあった。しかし、「W杯を見ていて、活躍した選手はGKの前で落ち着いていた。自分に足りない部分だったので、リーグ中断期間はそこを意識して練習した」。いざ、リーグ戦が再開するとゴールを量産。毎試合シュートを連発しているわけではない。ただ、GKとの1対1の場面など、数少ない好機を確実にモノにしている。「点を取れていること。それがいまの自信のすべてです」。
ではいま、気分良くプレーできているのか。
「正直、プレッシャーがあります。だから気分良くはないです。でも自分らしく攻守にフル回転して、こうして点も取れて…だから結局は楽しいんでしょうね」。
11得点。当初の目標の10点は達成した。世間の注目を受けながらも結果を残し続ける。代表戦士となった自分自身を受け入れつつもある。「ひさびさの2連休。ゆっくりします!」。少しだけ羽を休める武藤。ただ、いまの彼の勢いはとどまることを知らない。
武藤 嘉紀(むとう・よしのり)
1992年7月15日生まれ、22歳。東京都出身。178cm/72kg。バディSC→FC東京U-15深川→FC東京U-18→慶應義塾大を経て今季、FC東京に加入。慶應義塾大の現役4年生。実家で飼う犬を溺愛している。J1通算26試合出場11得点。