残留争いの大一番は、互いを熟知する者同士の対戦となった。甲府の佐久間悟GM、小倉勉コーチは大宮で監督も務めた経歴の持ち主。一方で大宮の渋谷洋樹監督は、甲府のコーチを昨年まで4年間務めた。今季は古巣・大宮に復帰し、シーズン途中から監督に就任している。
甲府に関わるおそらく全員が渋谷氏に抱いていた印象は“いい人”だろう。城福監督も「彼の謙虚さ、選手を大事にする気持ちは、コーチ時代から(大宮の)選手も感じていたでしょう。今までのこともリスペクトしながら、新たな気持ちを持たせるという意味で、彼の人間性が大宮の雰囲気を持ち直させた大きな要因なのでは」と立て直しの背景を推し量る。
もちろん人間性だけでなく、手腕が伴っているからこそのキャリアだ。大宮、甲府と計6年間にわたって仕事をともにした甲府の横谷亮・分析担当コーチは「さすがです。理に適っている」と就任後の手腕に舌を巻く。選手の意識を擦り合わせ、動きからムラをなくすことで、守備組織が密になっているという。
新井は大宮の育成組織出身で、トップチームでも渋谷コーチの指導を受けている。彼もやはり「渋谷さんになってブロックを作り、中を締めてカウンターという“大宮の原点”に戻ってきた」と守備の充実を認める。そして「渋谷さんは甲府のストロングとウィークを知っている。そこはしっかり狙ってくると思う」と警戒を強める。
とはいえ「大宮の強みは知っている」という新井の言葉を引くまでもなく、甲府にも渋谷監督と大宮を熟知する選手、スタッフがいる。確かに旧友、恩師と生き残りを懸けて戦わなければならない運命の皮肉はある。しかし、真剣勝負の世界で、友情に応える、恩を返す方法は決して何かを譲ることではない。相手をリスペクトし、全力を尽くすことだ。(大島 和人)