一瞬の出来事だった。佐藤健のパスを受けると、寄せてきた大分のDF土岐田をいなすように反転し、左足を振り抜く。次の刹那には、強烈な勢いのボールはGKすらはじいて、ゴールネットを揺らしていた。
「つぶされる場面がすごく多くて、チャンスもなかった。でも絶対、最後に一つ来ると確信してプレーしていた。ああいう場面を作れて、気持ちを込めて打ったら入った」
殊勝の森本はそう振り返る。自ら認めるように、この日の森本はなかなか前線で起点を作らせてもらえず、シュートも前後半を通じて2本のみ。得点を挙げる90分までは、決して満足できる出来ではなかった。
ただ、それでも最後のチャンスを信じ、それを決め切る力が森本にはある。決勝点をアシストした佐藤健は「それがサッカーをやっていて一番難しいことだと思うし、結果を出しているとおりその能力では抜けている」と、森本が持つストライカーとしての能力を語る。同点に追い付かれた直後の決勝点とあって、GK高木も「普通はあの展開で、あそこで点が入ったりはしない」と味方ながら驚きを隠さなかった。展開に関わらず試合を決めてみせる働きは、まさに“怪物”だった。
試合を決める一撃に「あれは…すごかったですね(笑)」と脱帽したもう一人の得点者・谷澤は、森本についてこう付け加えている。「ゴールだけじゃなくて運動量も多くて、守備でもすごく頑張ってくれている。そういったことがゴールにつながっているのかなと思う」。献身性を発揮しながら一つのチャンスを待ち、仕留める。モダナイズされた“フクアリの怪物”が、勝負弱さに泣いてきた千葉のJ2での歴史を塗り替えるかもしれない。(片村 光博)
森本 貴幸(もりもと・たかゆき)
1988年5月7日生まれ、東京都出身。180cm/79kg。東京V.JY→東京V.Y→東京V→カターニャ→ノバーラ→カターニャ(以上イタリア)→アル・ナスル(UAE)を経て昨季途中に千葉へ加入した元日本代表FW。J1通算40試合出場5得点。J2通算47試合出場10得点。