サポーターにとっての“戦い”は、早朝から始まっていた。
7時に列整理が開始されるため、早朝から埼玉スタジアム周辺は青黒と紫紺の色であふれる。巨大なスタジアムの両端に増えていく互いの待機列。その連なりは、朝もやとともにタイトルを欲する静かな情熱をまとっているようだった。
「気持ち見せたれ。決勝やぞ!」。「広島にタイトルを持ち帰ろう!」。
車で早朝に埼玉に着いた各サポーターグループは、そんな横断幕を作って“仲間”たちの気持ちを盛り上げていた。9時45分に開場してからも、コレオグラフィーなど試合前の演出の打ち合せを行い、入念に準備を進める。11時半ごろには、ゴール裏のコンコースで双方が決起集会を実施した。「カップをつかみ取れ」といった、この試合向けの歌詞が入ったチャントなどが確認された。
とある広島のサポーターは静かな口調で言った。
「3年連続のタイトル獲得にこだわりたい。ナビスコカップ決勝で磐田に負けた4年前の雪辱を晴らしたい。最後に、相手がG大阪ということ。9月の連戦で負けてしまった。今日は広島の誇りを見せて勝ってほしい。この三つは、広島サポーターの総意」。その思いは試合前に出した「俺達も一緒だ! 広島の全てをぶつけてやろうぜ!」というメッセージ幕に集約された。
G大阪は07年時にナビスコカップを獲った際と同じ十字のコレオグラフィーでゲンをかついだ。「3冠を狙えるのはウチだけ。埼スタ2連戦、どちらも勝つ。勝ち方は問わない。勝てばいい」(G大阪サポーター連合代表の鈴木啓之さん)。
彼ら中心部のリードの下、サポーターたちのタイトル獲得への決意と熱情は一つにまとまり、ピークに達した。そうして醸成された熱い雰囲気は決勝ならではのモノで、ホームとは遠い埼スタ開催でも大きな緊張感と期待感に満ちていた。「国立は開けているので応援が抜けていくが、埼スタは屋根のおかげもあって良く反響していたように思う」(鈴木さん)。声を届ける側としては、埼スタだからこその好作用もあったという。
試合中、広島の応援にも勢いがあったが、2点差をひっくり返したG大阪側の猛烈な後押しはすさまじかった。宇佐美やパトリックがサポーターをあおる。その光景はこれまで何度もあった。特別だったのは「この日はDF陣もあおっていた」(鈴木さん)ということ。そんな選手たちの思いに、サポーターたちもそれまで以上の声援で応えた。G大阪大逆転勝利への機運は、北側のスタンドから大きなうねりとなって広島側を呑み込んだ。
表彰式後、選手たちとともに戴冠を祝った青黒のサポーターは歓喜を爆発させた。またそれとともに、2週間後の勝利も誓っていた。「リーグ戦の次節(第32節・浦和戦)がまた埼スタである。そこでとにかく勝つことが大事。引き分けでも優勝は厳しくなる。しっかりと勝って、三冠への勢いを付けたい」(鈴木さん)。サポーターの思いはチームのそれと同じ。ほかのJリーグのチームとも同様だ。シーズンは佳境に入ったが、彼らの熱い炎が消えることはない。(田中 直希)