やられてはいけない男に、またしても決められた。豪州のエース、ティム・ケイヒルは語る。「いくらマークされても、正しい形でボールが来てそこにうまく合わせればゴールは決められる。4万人の観衆の目の前でゴールを決めたことで、その場が一瞬シーンとなる。あの瞬間は何物にも代えがたい」。
同じ瞬間、吉田麻也は両手を振り下ろして真っ先に怒りを示していた。そして試合後、記者の前に立つ表情もいつもより硬かった。失点の場面に質問が飛ぶ。より顔つきは険しくなった。
「もったいない失点。ケイヒルがファーに逃げる動きはミーティングでも言われていたこと。簡単にクロスを上げさせてもいけなかった。まあ、もうそのことは(選手同士で)話したので」。憮然としたままだった。
あの場面、クロスを上げた選手はフリーの状態だった。中央にいた森重真人は、半身の状態で初めはケイヒルを視野に入れていたが、ボールが蹴られる瞬間に背後を狙われ、そのままクロスに飛び込まれた。左SBの太田宏介も中への絞りが間に合わなかった。
酒井高徳が吉田との会話の一端を明かした。
「クロスの出し手に対して、僕と今野(泰幸)さんのどちらが行くのかを迷ってしまった。相手は高さが売りだと分かっていたのにやられた。個人としても何で相手に詰められなかったのだろうという思いがある。あの迷いはなくしたい。CBから注文が来るのも当然。何の言い訳もなしに悔しい」
翌日、早朝7時の関西国際空港。吉田は一睡もしないまま現れた。「もっと強い相手と戦うことを考えても、細かいところにこだわっていかないと。2-1で勝ってただ喜んでいるだけじゃダメ。モヤモヤした感情ですか? まだ残っている。あれは本当に良くない失点だった。ほかの選手のプレーを安易に批判するつもりなんてない。DF4人みんなでも話した。ケイヒルはすごくマークが難しい選手。でも次は絶対にやられないように。これを生かせるかどうか」。
ケイヒルと対戦経験のあるDFは吉田だけだった。彼の抜け目なさを再び痛感した日本。“天敵”にこれ以上、快感の瞬間を与えてはいけない。(西川 結城)