1,互いの思惑が絡み合う、勝ち点差『5』で迎える頂上決戦
やはり大事なのは「目の前の試合」(阿部)
「目の前の1試合が大事」。阿部や那須をはじめ、選手たちは今季、合言葉のようにこう話してきた。互いの勝ち点差を考えれば「絶対に勝たなければいけないのは相手のほう」(槙野)であることは確かだ。ただ、先を考えれば、浦和にとっても重要な一戦であることはより鮮明になってくる。
3試合を残して2位・G大阪との勝ち点差が『5』。ある程度のゆとりがある数字と言える。ただ、仮に敗れるとすればG大阪との勝ち点差は『2』に縮まり、次節は2012年以降、一度も勝利していないアウェイでの鳥栖戦。勝ち点の計算はしにくい。もし浦和が連敗してG大阪が連勝すれば、最終節を残して立場は逆転する。その最終節、G大阪の相手が降格の決まった徳島であることを考えれば、再逆転は難しい。今節を引き分けた場合、鳥栖戦、そして最終節の名古屋戦のいずれかで勝利を収めればいいが、精神的なプレッシャーはより強まる。
“勝たなければいけない試合”ではないかもしれないが、“是が非でも勝ちたい試合”であることは間違いない。だからこそやはり、「目の前の1試合」にすべてを尽くさなければならない。
「勝てばガラリと状況は変わる」(遠藤)
とにもかくにも“破天荒なクラブ”がG大阪だ。2012年には最多得点で2部に降格すると、昇格1年目にして三冠を本気で視野に入れると言う暴れっぷり―。ナビスコカップの戴冠でまず最初のハードルはクリアしたものの、リーグ戦は三冠の中で最も高いハードルだと言っても過言ではない。
かつてナショナルダービーと言われた宿敵浦和との一戦が、最高の大舞台で待ち受ける。毎試合が「(34試合ある)リーグ戦の34分の1」と常にクールな遠藤でさえも「間違いなく今節最も注目されるカード」と06年の最終節に似た状況設定に自ずと闘志を燃やしている。
大阪の雄が目指すのは06年のリーグ戦最終節のリベンジでもなければ、08年のACL準決勝の再現でもない。痛恨の降格劇を受け、長谷川体制で再起を目指してきたチームが目指すのは、新時代のスタートを切ることだ。「双方に重圧があるけれど、勝てばガラリと状況は変わる」(遠藤)。
時に理想に殉じることを良しとしたかつてのG大阪ではなく、現実主義者の顔も持つタレント集団が、今季最大の一戦に臨む。
2.埼玉スタジアムでの浦和対G大阪は、最高の舞台装置
数々の名勝負。Jリーグを彩ってきた好カード
1993年のJリーグ開幕当時から、複雑にもつれ、絡み合ってきたのが青黒と赤の糸である。
設立当初のJリーグではいずれも低迷する「お荷物」的なクラブでありながら、リーグ制覇とさらにはACLの獲得に成功し、日本のみならず世界の檜舞台でもプレーしてきた。そんな両雄にとっての最高の舞台装置となってきたのが埼玉スタジアムだ。
リーグ戦の制覇はG大阪が先んじたものの、最初に両者の直接対決による因縁が生じたのは06年のJ1最終節。3-0で勝てば逆転優勝という苦しい設定の中、一度は先制して夢を膨らませたはずの大阪の雄は、ワシントンやポンテ、闘莉王ら個の力を前面に打ち出す宿敵にねじ伏せられた。その後の天皇杯決勝でも浦和に苦杯をなめ、当時の西野監督は「引き立て役になった」と悔しげにつぶやいた。
そんな両者の関係が一変したのが08年のACL準決勝だった。万博での第1戦(1△1)でアウェイゴールを許したG大阪は埼スタでの第2戦、西野監督と遠藤らがこだわり抜いてきたパスサッカーで浦和を完全撃破。特に3点目はG大阪の真骨頂とも言える華麗な崩しから遠藤がダメ押し点を奪う。かつて、リーグ戦2連覇の夢を断たれたG大阪は、浦和のACL2連覇に確固として立ちはだかり、アジアの頂点へとのぼり詰めた。
「当時とは状況もメンバーも変わっている」という遠藤の言葉は選手から見た真理である。ただ、1シーズン制の最終年に実現した再びの直接対決は、新たな歴史の一コマになるのは間違いない。
3.苦難の時期を乗り越えた両者が、頂上で相まみえる
残留争いをした3年前からの盛り返し
2006年にJ1を制し、翌07年にはアジアを制覇。黄金時代の到来を予感させた浦和とG大阪との一戦は当時の日本代表監督だったイビチャ・オシム氏をして「日本のナショナルダービー」と呼ばれた。
しかし、“浦和の時代”はそう長くは続かなかった。07年に終盤の大失速でリーグ優勝を逃すと、08年は7位、09年は6位、2010年は10位と優勝争いをするには至らず、11年は残留争いを強いられるなど失墜した。
そのすべてを経験した平川は、今節の相手が06年に優勝を決めたと同じG大阪であることに「何かを感じる」としながら、こう語った。「僕らも残留争いをしたり、チームとして低迷した時期があって、それを乗り越えてはい上がってきた。G大阪は1回落ちて、J2で厳しい試合を乗り越えて上がってきた」。
苦難の時期を乗り越えた両者が、再び頂上で相まみえる。浦和にとって狙うのはもちろん、G大阪を倒して優勝をつかんだ06年の再現にほかならない。
「Rising G」。そのスローガンどおりの道のり
それにしても絶妙なチームスローガンを掲げたモノである。『Rising G』。沈んだ太陽が再び昇り、光を放つことをイメージしたこの言葉どおりの軌跡をチームは歩もうとしている。クラブ史上初の降格から1年でのJ1復帰を果たすと、ナビスコカップで早くも今季初戴冠。もちろん、その成果に文句の付けようはないが、宇佐美が「三冠の中で一番重みがあるのはリーグ戦」と言えば、2006年の最終節で浦和に敗れて優勝を逃した経験を持つ明神も「(三冠の中で)一つ選べるならば、僕が一度も手にしていないリーグ戦の優勝」と語る。05年に獲得して以来、近付きかけては遠ざかってきたリーグ優勝に選手たちは強いこだわりを持っている。
かつて浦和が降格からはい上がってアジアの頂点に上り詰めたように、大阪の雄も再び常勝軍団としての復権を目指す。11年の柏以来となるJ1昇格1年目での優勝は、G大阪に二度目の全盛期が訪れたことを告げるモノとなる。
4.コレオグラフィー解禁。最高の舞台は整った}:
重要な一戦に欠かせぬ、世界に誇れるコレオ
チケットは早々に完売。満員のスタジアムで行われるタイトルを懸けた一戦となる。5月17日のJ1第14節・C大阪戦もチケットは完売し、54,350人の大観衆に沸いた。しかし、それを遥かに凌駕した雰囲気になることは想像にたやすい。
15日、G大阪戦に向けてクラブはコレオグラフィーの解禁を発表した。浦和サポーターによるコレオグラフィーは過去、タイトルが懸かった試合や選手の退団、引退時など、数々の重要な一戦で掲げられてきた。その圧倒的なビジュアルは浦和の重要な一戦に欠かせないモノであると同時に、日本が世界に誇れる文化と言っても大げさではない。
浦和は3月8日に行われた第2節・鳥栖戦で起きた人種差別問題により、オフィシャルフラッグを除く掲示物の使用を禁じていた。禁止になった背景を考えれば当然、ネガティブな意見も散見される。だが、やはり多くのファン・サポーターが待ち望んでいたコレオグラフィーの解禁によって、G大阪戦の応援により熱をが入るサポーターも多いことは確かだ。
宇賀神は「あれを下から見られるのは全国でも自分たち11人と相手の11人しかいない」と特別なモノであることを強調しながら、「あの幸せを感じながら、なおかつそういう環境で結果を残せることがどれだけ幸せかということを考えながらプレーしたい」と話した。ほかの選手たちも、気持ちをより昂ぶらせることだろう。
コレオグラフィーの解禁によってあらためてこう言える―。最高の舞台が整った。