膨らんでいく国民の期待、さらに前進するために
2014年の年の瀬。TVを付ければ、1年を振り返る特集が多く流れていた。スポーツの話題になると決まって登場したのが、フィギュアスケートとテニス。ソチ五輪で羽生結弦が金メダルを獲り、浅田真央も感動的な滑りを見せた。また錦織圭は全米オープンテニスで日本人初の決勝に進出した。画面にブラジルW杯で戦った日本代表の姿は出てこない。本当にW杯イヤーだったのかと疑ってしまうような感覚。まるで、あの6月の出来事がなかったことかのような扱いでもあった。
W杯以降初めての大会となる、アジア杯2015。大会を前に、選手たちの思いは一つだ。「W杯で国民の期待を裏切ってしまった。今回は、皆さんの思いにもう一度応えるための大会」。長谷部誠がそう代弁する。
決して慢心しているわけではないだろう。敗北の辛さは、ブラジルで痛いほど味わった。ただ一方で、国民のアジア杯連覇への期待感も決して小さくはない。W杯前のような高揚感こそはないものの、ファンの中にはあの悔しさを感じてもなお、どこかでいまの代表戦士たちへの信頼が消えていない。それはアギーレジャパンが発足されてからも、各地で行われる代表戦に多くの観客が集まったことで示されていた。
4年前の11年1月。カタールの地で、ザックジャパンはアジアの頂点に立った。あの大会が、その後の代表の自信につながっていくのだが、思い返せば大会前はそれほど優勝への期待感は大きくなかった。初めてイタリア人監督を指揮官に迎え、親善試合たった2試合を消化しただけで大会に突入した。チームはまだ手探り状態であり、力も未知数だった。
現在のアギーレジャパンも、同じ境遇にある。新たにメキシコ人指揮官に率いられ、大会前にザックジャパンよりも多い6試合を戦っているが、このアジア杯が新体制として初めての公式戦であることに変わりはない。 また、4年前は南アフリカW杯でベスト16に進出したあとの大会でもあった。世界を相手に一定の結果を示したにもかかわらず、アジア杯優勝への機運はいまほど高くはなかった。一方、今回はくどいようだがブラジルW杯での敗北後の大会なのである。つまり本来は、期待されない立場だろう。
4年前の大会直前と似た状況。ましてや、南アフリカで手にしたような成功体験を失った状態で戦う今大会。それでも、国民やファンの期待感は膨らんでいくのである。
なぜ、期待は膨らんでいるのか。
ザックジャパンは、過去の代表と比較してもかつてないほどの人気を誇った集団だった。イケメン選手に声を上げることも良いだろう。ただし、世界の舞台で立身していく選手たちに、リスペクトの思いが向けられていたからこそ耳目を集めたことも確かだ。ミランで10番を背負い、インテルでキャプテンマークを巻いた経験を持ち、ドイツで得点ランク上位に位置し、プレミアリーグでDFとして研鑽の日々を積む選手たちがいる時代。ブラジルでは勝てなかったが、日本人選手が世界を相手にしのぎを削り戦い続け、成長してきた事実に嘘偽りはない。
さらに言えば、今回の主力の顔ぶれは4年前と大差がない。川島永嗣、吉田麻也、長友佑都、長谷部誠、遠藤保仁、岡崎慎司、香川真司、そして本田圭佑。灼熱のカタールで戦った先発選手たちは、今回の豪州でもスターティングメンバーに名を連ねるだろう。
大会初戦を2日後に控えた岡崎は、こう語る。
「アジア杯、そして僕らへの期待感は、この4年間以上に何十年の積み重ねの結果、日本サッカーが少しずつ確実に前に進んでいる証拠だと思う。ただ、僕個人としてはブラジルで打ちひしがれて、もう一回これまで作ってきたことをある程度壊して、次はもっと良い自分にしていくということが大事。優勝に対するプレッシャーも、前回より高いと思う。でもここで優勝したら、また日本は前に進めているという確信がつかめる」
選手皆、それぞれが描く目標がある。欧州で、代表戦で、常に悔しさと手ごたえを繰り返し感じていくことで、それはどんどん高まっている。そんな選手たちの集団が、いまの日本代表なのだ。過去の代表が経験していない未知の高みに突き進もうとしているからこそ、敗北してもなお期待が高まるのである。
これまで何度もドラマを生み、国民を熱くさせてきたアジア杯。今回も道は険しいが、勇ましい頂点への歩みを見せる日本の姿を目にしたい。(西川 結城)