あの選手の一撃がなければ、試合はもう少し堅い状態のまま推移していただろう。「1点目が入っていなかったら、結構苦労したかもしれない。あれでチームとしてはいけるなと」(本田圭佑)、「一番はヤットさん(遠藤保仁)のミドルですね」(岡崎慎司)。
攻撃陣もそう口々に語るほど、早々の8分に決まった遠藤のミドルシュートの価値は大きかった。
4度目のアジア杯となる遠藤。過去に04年の中国大会と11年のカタール大会で、2度の優勝を経験している。日本において最もこの大会を経験し、そして頂点に立ってきた選手だ。
そんな遠藤も、成し遂げていないことがある。それは、連覇。04年優勝の次の大会(07年・東南アジア4カ国共催大会)で、当時のオシムジャパンは準決勝でサウジアラビアに敗れた。「あれだけ経験してきたヤットさんも、連覇は達成していない」(長谷部誠)。周りの選手たちがリスペクトするベテランでも、実現できていない目標。選手たちは今大会でタイトル奪取を目指す一方、やはり難攻な頂に向かっているという自覚も持って、この初戦に臨んでいった。
試合前日のミックスゾーンでのこと。選手たちは過度に張り詰めた印象もなく、真剣な表情と笑顔が適度に織り交ぜられていた。国際大会の初戦を迎えるにあたっては、非常に自然体でいるように見えた。アジア杯はW杯ほどの世界大会ではない。それでも日本には前回王者としてそれ相応のプレッシャーがある。結局、試合でも戦前の冷静なスタンスのままで試合を進め、まずは初戦にのしかかった圧力をはね除けてみせたのであった。
日本代表には経験豊富な選手たちが多くそろう。世界の舞台で戦っているという自負が、この結果を生んだとも言える。しかし、こんな意見をする選手もいた。
「正直、周りが言うほど今回優勝することは簡単ではない。それを自分たちがどれだけ理解しているか。『勝って当たり前』という思いで、地に足が着いていない状態で戦えば、絶対に負ける。例えば前半0-0で終わっても、そこで我慢できるか。『勝って当たり前』と初めから思って試合に入ったら、その状態だと余計に変なプレッシャーがかかる。だから、そういう気持ちの統一については、どこかでみんなで一回話をするのもいいかもしれない。油断してはいけないということを、あえて口にして共有するというか」
岡崎がこう警鐘を鳴らしたのは試合2日前だった。ちょうどその夜に、宿舎ではこの遠征で初めての選手ミーティングが行われた。それまで取材を進める中で、「アジアが相手とはいえ、まずは慎重に入るべき」と話す選手もいれば、「普通に自分の力を出せば勝てる相手」と言う選手もいた。そのギャップを、初戦を前にしっかり埋めて一つにすべきだった。
ミーティングでは主将の長谷部が、遠藤に発言の指名をした。遠藤は、全員にこう釘を刺した。
「アジアは本当に甘くない。厳しい試合になる」――。
歴戦者の一言は重く響いた。このミーティングで覚悟と冷静さ、そして適度な自信を保つ大切さを共有できた選手たちは、力みなく自然体でいられたのであった。
パレスチナ戦後、遠藤はあらためて一言。「今日みたいな(ラクな)試合はもうない。切り替えてやりたい」。アジアが相手でも、日本が兜の緒を緩めることなど、あってはならない。( 西川 結城)