GK川島永嗣までもが喜びの輪に駆け付けるあたりに、それが待望の瞬間だったことが分かる。
香川真司が沈黙を破り、ゴールを挙げた。ブラジルW杯以降、代表でもドルトムントでも苦しんできた男にようやく笑顔が戻ってきた。
長らくプレーしてきたトップ下、さらにはザックジャパン時代の左サイドのアタッカーというポジション。そこからスピードに乗った状態でゴール前に入っていき、フィニッシュに絡むプレーが香川の理想の姿だと誰もが認識してきた。
アギーレジャパンに招集されて以降、彼の定位置は変化している。中盤3枚の左前方、いわゆるインサイドハーフと呼ばれるポジション。ゴールに迫ることも要求されるが、それ以前に優先すべき仕事も多岐に渡る。パスの受け出しから始まり、視野と展開力を生かしたプレーや守備への素早い切り替えと帰陣。そして相手DF裏への抜け出しと、攻守両方で重要なタスクをフル回転で行っていく必要がある。
ここ最近、香川のインサイドハーフに疑問を投げかける意見が出ていた。その中身の大半は「ゴールに向かう香川の特長が生かされない」という、一側面からだけの視点だったように思える。
ただ、どうだろう。確かに以前に比べれば、絶好のシュートシーンは少ないかもしれないが、いまのポジションでも香川は多くのチャンスを創出している。
相手の圧力の掛かる中盤中央でも、持ち前の高い技術力でボールをキープ。そこから敵の間隙を突く短いショートパスや、逆サイドへのサイドチェンジも見せる。複数の選手が近い距離にいれば、少ないタッチで連係していく。第2戦目のイラク戦では合計8回のチャンスに絡んでいる。これまでのボールの受け手という役割から、出し手にも受け手にもなる──。香川には、それを可能にする日本人屈指のテクニックがある。
インサイドハーフとして受け手にもなって決めた今回の得点は、理想の形。また今後もアタッカーで起用される場合は、ゴールに絡むことに専念すればいい。しかし一つ言えるのは、香川の魅力は、それだけではない。これまでゴールについてばかり聞かれては、自らに言い聞かせるようにその必要性を説いていた彼も、ヨルダン戦後には本音を吐露した。「ゴールが取れないことに悔しさはあったけど、別にそこがすべてではないというのも自分の中ではあった」。われわれは少々ステレオタイプな印象を持ち過ぎていたのかもしれない。香川真司、そのプレーの器は大きい。何せ彼は、日本の“10番”なのである。(西川 結城)