何気なく発した一言だったかもしれない。
「もっと大事な場面で決めたい。チームを助けたい」
1月、真夏の豪州。武藤は日本代表の一員としてアジア杯を戦っていた。大会中、今季のFC東京について話を振ったことがあった。なかなか思うようなプレーができていなかった代表での日々。愛着あるチームの話になった瞬間、武藤の表情が少し和んだ。青赤をまといプレーする姿こそが、“素”の自分である。
今季の目標は、得点王。ただもう一つこだわりがある。「決勝点。自分の得点でチームを勝たせる」。その思いは、エースとして振る舞う自覚をも表している。 この試合、FC東京は前年の三冠王者に2点のビハインドを負った。これまでの守備的なチームの印象からすれば、ここから2点、3点と奪い返すことは厳しいと思われた。
そんな沈黙の予想を、武藤が覆していく。
75分、ゴール前で前田の落としを受けた。背中にはDFがピッタリつき、ゴールも真後ろにある。ただ、「DFとGKの動きは見えていた」という。大きくフェイントを入れると相手に読まれる。そこで武藤は左足でトラップすると、素早く反転し左足を振った。ボールはDFの股を抜け、ゴールに吸い込まれた。
そして90分、今度は起死回生の強烈なドライブシュート。「とにかくゴール枠内を意識して。あとは運にも任せた」。ゴールネットだけではない。王者のメンタルにもグサリと突き刺さる一撃だった。
あくまで同点弾。決勝点ではない。それでも武藤は言う。2ゴールで上々のスタートを切ったことも、度肝を抜くようなシュートを決めたこともうれしいが、一番の喜びは「チームを助けられたこと」だった。
開幕前から期待と重圧を一身に受けていた。「少し肩の荷が下りた。ここからリラックスしてプレーできる」。有言実行の活躍に、称賛を惜しむ者はいないはず。そして次こそ、決勝点。それが『エース・武藤』が今季果たすべき、最大の仕事である。(西川 結城)