ドラマだったとしても劇的過ぎやしないだろうか。公式戦開幕3連敗。ACLグループステージ第2節・ブリスベン・ロアー戦後のブーイング。湘南戦での今季初勝利。公式戦が開幕してからの一連の流れで、ドラマの主役は阿部だった。3連敗に誰よりも強い責任を感じ、サポーターのブーイングに対して共闘を訴え、湘南戦では魂のこもったプレーと言動でチームをけん引。その主役が苦しい試合で決勝ゴールを決めた。
ワールドクラスのゴールを柏木は「何も言うことはない」と表現した。それはもちろん、感想がないという意味ではない。“誰が見ても分かる”あらためて説明する必要のない“スーパー”なゴールだったということだ。阿部はゴールを振り返り、「セカンドボールを狙いに行って、バウンドと打てるタイミングがピッタシかなと思った」と話した。バウンドした次の瞬間に阿部の足にミートしたボールはすさまじい勢いでホップしながらゴール左隅に突き刺さった。世界でもトップクラスのゴールだ。
宇賀神は「俺が言ったからだと思います」と笑った。それは宇賀神の記憶では先週のこと。阿部のシュート練習を見て、「最近、阿部ちゃんの(強烈なミドルシュート)見ないね」と話していたという。「最近見ない」。そういうことだ。つまり、裏を返せばこれが阿部の持ち味であり、ゴール前に上がって行って強烈かつ正確なミドルシュート、またはハーフボレーをゴールに突き刺すのが阿部の真骨頂だ。それが苦しみと初勝利を経たリーグ戦のホーム開幕戦で出るのだから、あっぱれとしか言いようがない。
しかし、試合後の阿部に笑顔はなかった。リーグ戦で開幕2連勝を果たしたが、「続けることが大事」だからだ。「もっともっと頑張らないといけない」からだ。そしてゴールを喜ぶこと以上に、ミスが多かったことや、縦パスをうまく入れられなかったことを反省した。常に前を向き、次の試合のために。その考えもまた、阿部の真骨頂なのだ。(菊地 正典)