キックオフ前からスタジアムに鳴り響く、“ナオコール”。その声に乗せられた大きな期待は、結果という現実となって返ってきた。
万雷の拍手を送るサポーターの前に立つ、石川直宏。胸を2度強く叩き、深く、深くお辞儀をする。そして最後に、エンブレムにキス。引き締まった表情に笑みが混じる。33歳、渋みが増した役者顔だった。
「今季初勝利を飾りたい」、「主力の選手たちに刺激を与えたい」。石川の頭に浮かんでいたのは、まずはチームのことだった。
「戦術はしっかりしている。でも、頭でっかちになっては自分たちの良さが出ない。日本人は真面目だけど、その分勝負の本質的な部分が抜け落ちてしまうこともある。監督もそこは悩んでいるだろうし、僕もリーグ開幕から2試合を外から見て物足りなさを感じた」
石川以外にも、東や高橋、吉本など、今季まだリーグ戦で先発機会のない選手たちがこの日は出場した。彼らを代表するように石川は試合前日、「普段試合に出ているメンバーにも危機感が生まれるようにプレーしないと。僕たちの役割は大きい」と話していた。
その言葉どおり、石川は前半から走り、誰よりもボールを呼び込み、シュートを打った。時間を追うごとにFC東京のプレーの“量”が増えた。それは、この男の気概が間違いなく影響していた。「自分勝手なプレーではなく、前に前に。それが東京のサッカー。できる限り僕も伝えていき、成長したい」。
65分、右サイドから中央にドリブルで切り込み、DF3人を翻ろう。左足を振り抜いた瞬間、「ゴールの位置は見ていなかった」という。「でもあのエリアでしかけていく感覚はこれまで持っているモノ。良い形でシュートを打つことだけに集中した」。13年以来のひさびさの得点。ゴールを量産していたときの研ぎ澄まされたあの感覚を、確かにピッチで表現した。
攻撃の形のない苦しいチームを、個の力でも助けた。この日青赤を救ったのは、誰を隠そう“ナオ”。待望の復活劇だった。(西川 結城)