80分の出来事だ。消耗していたためか水永は田中のスルーパスに反応できなかった。これを見てベンチを振り返った森下監督の口は「まさお」と動いた。
昨季、辻はけがに泣いた。今季ここまでメンバー入りした試合は6試合。そのうちピッチに立ったのはわずか3試合。その中で迎えたチャンス。1点ビハインドの状況でFWに期待される仕事とは――。
3月29日、第4節・岐阜戦(2○0)、辻は自らの誕生日に今季初出場を果たした。その数日前に28歳の抱負を語っていた。「去年は自分の中で悔しかった。今年は応援してくれる皆さんのために結果を出して期待に応えたい」。ただ自身の状態は「キレが少し出てきているが、自分の中ではまだまだ」だった。
全体練習が終わったあと、辻は毎日のようにトレーナーとマンツーマンでさらに汗を流す。ラダートレーニングや細かいステップを踏んでからのシュート練習をひたすら繰り返す。「最後の一歩や継続して動くことを狙ったフィジカル的な要素」を取り入れた、より実戦的なシュート練習を続けている。
4月29日、第10節・札幌戦(1△1)は66分にピッチに入った。「ひさびさに少し長い時間試合に出られた」と前向きだったが、ベンチ入りも保証されない現状に「試合に絡むところでの自信がイマイチ付いてこなくて、なんかモヤモヤした部分があった」。外から客観的に試合を見ることも多く、うまく回っているチームに自分の良さを落とし込む難しさも感じていた。「少ない時間で結果を出すしかない」という言葉から危機感や焦り、そして覚悟がひしひしと伝わってきた。
千葉との大一番。こぼれ球に素早く反応したゴールを辻は「迷いなく振り切れた。日ごろの積み重ねの結果かな」と話した。常に良い準備を怠らず、日々、重ねてきた努力が実を結んだ。「今度は自分がもっと結果を出してチームを引っ張っていけるように」。金沢の背番号9は、すでに次のゴールを欲していた。
この姿勢もまた、金沢の強さの理由に挙げられるだろう。(野中 拓也)
辻 正男(つじ・まさお)
1987年3月29日生まれ、28歳。173cm/71kg。神奈川県藤沢市出身。小糸SSS→大庭中→法政大第二高→法政大→Y.S.C.C(. 関東1部→JFL)→鳥取(J2)を経て昨季、金沢に加入。Y.S.C.C時代には証券会社で働きながらサッカーを続けた。12年JFL得点王、ベストイレブン、新人王。昨季は前十字じん帯を損傷し、今季は再起のシーズンとなる。J2通算13試合出場1得点、J3通算10試合出場4得点。