攻め合いながら決め切れず、スコアレスドローに終わる雰囲気も漂い始めていた83分、冨樫監督はこの男をピッチへと送り出した。中盤をダイヤモンド型に変えて永井をトップ下に配置し、サイドに高い位置を取らせ、より攻撃的に行く狙いだった。
大分としても点を取らなくてはならない状況。相手のシステム変更も分かっていながら、自由に動き回る永井を捕まえ切れないまま、攻めの姿勢を貫いていた。そんな87分。「永井さんしか見ていなかった」と言う高木からフリーでパスを受けた永井が平本にクサビを入れると、それが安在の値千金の決勝弾を生んだ。
「もうちょっと賢くサッカーをすればチャンスは必ず来ると思っていた」
試合後にそう語った永井に、その「賢さ」とは何かを訊ねると、こう答えた。「自分が思うのは、相手がいないところを攻めるというすごくシンプルなこと。味方を見るのは当然だが、相手をよく見て、相手と相談しながら攻撃する。自分たちの思いだけで動くのではなく、相手の陣形や配置を見て攻めるのが利口だと思う」。
試合終了間際の12分間(ロスタイム含む)で3点ビハインドから逆転勝利した第7節・岐阜戦(4○3)でも、反撃の狼煙となったのは永井のドリブルでの中央突破だった。与えられた短い時間の中で決定的な仕事を遂げる存在感は、若き仲間たちとの密なコミュニケーションによって培う信頼関係の上に成り立っている。名門復活への緑の血脈。伝統のパスサッカー再興へと、44歳が輝きを放つ。(ひぐらし ひなつ)