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[日本代表]FW 宇佐美貴史 彼の決定力が日本の未来を大きく左右する

2015/9/29 20:31



強面なやんちゃ坊主に見えるも根は真面目。目指すところは誰よりも高いサッカーの虫


 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる新生・日本代表の初陣だった2015年3月27日のチュニジア戦(大分)で待望の国際Aマッチデビューを飾り、続く31日のウズベキスタン戦(東京)で豪快なドリブル突破から代表初ゴールを奪った宇佐美貴史(G大阪)。彼は京都・長岡京で育った少年時代から「怪物」の称号をほしいままにしていた。

 長岡京サッカースクールに在籍した小学生の時は、高学年3年間に合計600点以上のゴールを挙げたというから驚異的だ。中学入学と同時にガンバ大阪の下部組織に入ってからもゴール感覚は天才的で、つねに飛び級で上のカテゴリーに昇格。プロ2年目だった2010年には、18歳でJリーグベストヤングプレーヤー賞にも輝いている。2011年夏に移籍したバイエルン・ミュンヘンではなかなか出場機会を得られず、翌シーズンに見出した新天地・ホッフェンハイムでも試合に出たり出なかったりと異国では苦境も経験したが、頭抜けた攻撃センスにはドイツ代表の選手たちも一目置くほどだった。

 その「怪物」にとって、どこまでも遠かったのが日本代表での活躍だ。初めてA代表に招集されたのは、2011年6月。アルベルト・ザッケローニ監督時代のキリンカップ、ペルー・チェコ2連戦だった。しかし、ザック監督は「宇佐美はあくまで五輪代表の選手。今回は才能を見極めるために呼んだ」とテスト的な抜擢だったことを公言。出場機会も与えられずじまいだった。ホッフェンハイムでレギュラーの座をつかんでいた2012年11月のオマーン戦(マスカット)にも招集されたが、この時も出番はなかった。結局、2014年ブラジルワールドカップのメンバーには選ばれず、同年9月から本格始動したハビエル・アギーレ前監督率いる日本代表にも入れなかった。

 その理由は明確だった。

「宇佐美はボールを持った時の動きは素晴らしいが、ボールのない時の運動量が少なすぎる。守備のハードワークもできない」

 こういった評価が根強かったからだ。

 実際、アギーレ監督率いる日本代表には、同じ歳の武藤嘉紀(FC東京)が抜擢され、新世代のアタッカーとして重用されていた。武藤は宇佐美ほどの強烈なシュート力、非凡なドリブル突破力はないが、前から献身的にボールを追って守備に貢献できる。現代サッカーではこういう選手の方がより重用される。少年時代からトップを走ってきた宇佐美にとって、武藤の台頭は大きな衝撃だったはずだ。それでも天才には天才のプライドと流儀がある。彼はそこで自分流を貫き、大きくプレースタイルを変えようとはしなかった。

 その頑なな考え方が劇的に変わるきっかけとなったのが、ハリルホジッチ監督の代表抜擢である。3月の代表合宿では、足元のスキルは決して高くないものの、無尽蔵の走りでドイツで大成功を収めた岡崎慎司(マインツ)に「いつどんなタイミングで走るのが効果的か」と自ら聞き、ヒントを得ようと貪欲になった。追い越される形になっていた武藤の一挙手一投足を見て、いい部分を取り入れることも忘れなかった。そこまでして自分を変えようとしたのも、世界トップを目指す貪欲さと意識の高さゆえ。宇佐美はここへきて、真の怪物へと変貌しつつあるのだ。

 まさに注目の23歳だが、彼は強面の表情に金髪と、一見すると怖そうなヤンチャ坊主に見られがちだ。しかし、実は真面目で礼儀正しい好青年なのである。

 Jリーグの試合に出始めた2010年春、まだ自動車運転免許を持たない宇佐美は寮からモノレールと自転車を乗り継いで万博記念公園内の練習場に通っていた。その宇佐美と筆者は駅でバッタリ会ったのだが、「メディアの方ですよね」と自ら近寄ってきて、声をかけてくれた。偶然の出会いを彼はその後も覚えていて、試合で会うたびに「その節はどうもありがとうございました」と挨拶をすることを欠かさなかった。Jリーグ屈指のスタープレーヤーとなった今もそのスタンスは基本的に大きく変わらない。試合に負けると報道陣の取材を拒否する選手も少なくないが、彼は決してそういう立ち振る舞いはしない。ガンバの先輩・遠藤保仁、今野泰幸の影響も大きいだろうが、こうした対応は、関係者からも好感を持って受け止めている。

 愛妻家としても知られている。彼はバイエルン移籍直前の2011年6月、キャスターとして活動していた田井中蘭(現宇佐美蘭)と19歳で結婚。ともにドイツへ渡った。2年後の2013年夏には古巣・ガンバ大阪に戻ったが、つねに妻と二人三脚でサッカー人生を切り開いている。ハリルホジッチ監督が体脂肪率の計測を行い、宇佐美が15%台だったことが明らかにされると、彼は妻の協力を得て、栄養管理を徹底。アスリートとしてムダのない肉体を作り上げる努力をしているという。若い夫婦がそこまでの協力関係を構築できたのも、宇佐美が奥さんを誠心誠意、大切にしているから。そういう意味では理想的な若者ではないだろうか。

 サッカー選手としても人としても着実に成長を遂げている宇佐美貴史。彼が6月16日のシンガポール戦(埼玉)から始まる2018年ロシアワールドカップアジア予選で重要な働きをするのは間違いない。彼の決定力が日本の未来を大きく左右すると言っても過言ではないだけに、そのプレーは必見だ。

FW 宇佐美貴史(G大阪)
1992年5月6日生まれ。京都府出身。178cm/69kg。G大阪JY→G大阪Y→G大阪→バイエルン・ミュンヘン→ホッフェンハイム(以上ドイツ)を経て13年の途中にG大阪に復帰。

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