本人も「非常にフリーな状態だったし、プレッシャーもなかった」と振り返ったとおり、イラク代表は柴崎岳に自由を与えてくれた。ボールを持ってもすばやく寄せてくる選手はおらず、おかげでパスは狙い放題。好パスを連発したことを尋ねられても、本人はニコリともしなかった。確かに、相手のレベルは想定よりも低かったかもしれないが、だからといって柴崎が試合で見せた価値が下がることはないだろう。パスの出し手に求められるのは、前線の速い動き出しを見逃さない目。プレッシャーがまったくなくても見えていない選手には、見ることのできない景色がある。幼いころからその非凡な才能を見せ、鹿島加入時には「鷹のように視野を広く持ち続けたい」と話していた柴崎。まさに、空から俯瞰したような視野でフィールド全体を見渡し、一瞬のパスコースを見逃さずクサビを打ち込んだ。
日本代表の中心選手の一人である本田圭佑からは大きな期待が寄せられた。しかし、色めき立つ報道陣に対し、柴崎は冷静な姿勢を崩さない。
「光栄なことだが、僕だけでそう言ったものを背負いこむつもりもないし、僕は僕として、今までどおりやっていきたいと思う」
名実ともに先頭を切って走らなければいけない鹿島とは違い、日本代表ではまだまだ誰かの背中を追いかけなければいけない立場だ。1試合うまくいったからといって満足することもない。大事なのはそれを続けていくこと。それに、イラク戦でも課題がなかったわけではなかった。
「個人としては体力的にちょっと落ちてしまった」と本人も自覚するとおり、後半になって運動量は目に見えて落ちてしまった。それまでは、SBや前線にパスを入れたあと、すぐにフォローできるポジションを取っていたが、90分間同じ動きは続けられなかった。ただし、新たな7番像はハッキリ印象付けられた。その空気は遠藤保仁より、柴崎が子供のころに憧れた中田英寿のそれに近い。(田中 滋)