報道陣から送られた誕生日ケーキ。13日で29歳になった本田圭佑は、照れ笑いをしながらあらためて抱負を述べた。
「いまは自分が認識している自分の良さの枠を越えようとしている段階。この年齢でも何でもやってみようと」30歳にも差し掛かろうとする時期であれば、いまある特長をさらに強調しながらプロ人生を歩んでいこうとするのが普通。しかし本田は、新たな自分にトライする。チャンスメークもゴールも、攻撃のすべてを一人で背負い込むのがこれまでのプレースタイルだった。しかしブラジルW杯で、その気概は砕け散った。いまは、よりゴールを奪うことに専念、注力するようになっている。「新しい良さを出したい」。イラク戦で見せたゴールこそが、いま求める理想の姿である。相手DFの裏に抜けて、シュートを決める。このシンプルだが作り出すのが難しい場面に自ら絡むための作業を、本田はブラジルW杯以降、所属するミランでも繰り返している。動きのキレは、ミランでのシーズン中よりも明らかに鋭い。
「(状態は)良かった。この感覚でやれる調整や準備を、(今後も)しないといけない。(6月上旬の)幕張での調整が良かったから、ここで出せた」
ただ、この好調を維持できない。それが、ここ数年の自分の懸案であることも理解している。冷静ながらも自戒を込めて語った。
「コンディションが悪いときには、これ(良い自分)が出ない。今回幕張で行った調整は、ミランでは自主練習ではやるけど、チーム練習ではできない。それで試合が立て込んだりしていくと、次の試合で良いプレーが出ない。それが、僕がさらなるステージに行けない一つの理由」
現状の自分と、さらなる高みに行きたいもう一人の自分。本田は常にこの葛藤を抱えてきた。それはプレースタイルを変えつつあるいまも同じである。「自分の目指すプレーはまだ遥か先。到達するためには、やはり成長速度は遅過ぎる。毎試合、点を取れなくても、ああいった飛び出しでああいったボールのもらい方を2本、3本。それをクラブでも毎試合できれば、多分もう一段アップグレードできるとは思う。でもその領域には至っていない」
イラク戦の日本のパフォーマンスに対しては、賛否両論が飛び交っている。ハリル・ジャパンが目指す縦に速い攻撃が、一定の出来だったのは間違いない。一方、アジア杯でベスト4に進出したイラク代表がこの日は、想像以上に歯ごたえのない状態だったことも確か。このレベルの相手に日本が好ゲームを演じたところで、称賛には値しないという論調もある。勝利に沸くファンやメディア、その雰囲気に釘を刺す専門的な視点。きっと、イラク戦の正当な評価は、その両方の意見のちょうど中間にあるのだろう。手ごたえとして感じるところはポジティブに捉える。ただし、必要以上の満足感は決していらない。そんな、日本が持つべき冷静な視点を、自分自身のプレーに重ね合わせながらうまく表現していたのが、本田だった。狙いどおりのプレーで結果を出した。と同時に、まだまだ質・量ともに足りない。個人も集団も、自信と反省をともにかみ締めた先に、進化がある。
「若いときに感じていた成り上がり精神を捨てずに、向上したい」
29歳。大人になった本田は、自分にそう言い聞かせる。ハリル・ジャパンはまだ船出したばかり。誰よりも酸いも甘いも味わってきた本田の絶妙なバランス。新たな代表においても、その存在感は計り知れない。(西川 結城)