3月に就任したヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる新生・日本代表にとって初の公式戦となるのが、16日の2018年ロシアワールドカップアジア2次予選・シンガポール戦(埼玉)だ。
この試合に向けて、指揮官は1日から欧州組を前倒しで招集してコンディションを整え、8日からは国内組も加えてミーティングとトレーニングを繰り返してきた。11日のイラク戦(横浜)は4−0で圧勝し、チーム全体が前向きなムードに包まれたが、真剣勝負というのは何が起きるか分からない。前回の2014年ブラジルワールドカップアジア3次予選初戦・北朝鮮戦(埼玉)も相手の手堅い守りに苦しみながら、吉田麻也(サウサンプトン)の劇的ロスタイム弾でやっとの思いで勝利を飾っている。それだけに、今回も気を引き締めて戦うことが肝要だ。ハリルホジッチ監督も「罠が仕掛けられている」と警戒心を露にし、選手たちの集中力を喚起した。
注目のスタメンはイラク戦と全く陣容だと思われたが、長友佑都(インテル)が左でん部に張りを訴えて控えに。代わって太田宏介(FC東京)が抜擢された。この日の先発はGK川島永嗣(リエージュ)、DF(右から)酒井宏樹(ハノーファー)、吉田、槙野智章(浦和)、太田、ボランチ・柴崎岳(鹿島)、長谷部誠(フランクフルト)、右FW本田圭佑(ミラン)、左FW宇佐美貴史(G大阪)、トップ下・香川真司(ドルトムント)、1トップ・岡崎慎司(マインツ)の4−2−3−1。練習でトライした長谷部をアンカーに置く4−3−3をぶつけるかと思われたが、始まりは通常布陣でスタートした。GKは権田修一(FC東京)がベンチ外となり、西川周作(浦和)と東口順昭(G大阪)が控えに回った。対するシンガポールは4−5−1の守備的布陣。彼らは日本を零封し、ワンチャンスからゴールを狙う戦いを見せたかった。
案の定、序盤から日本が主導権を握る形となったこの試合。開始4分には長谷部のタテパスを受けた本田が反転して左足シュートを放ち、12分には柴崎から右サイドでタテパスを受けた香川が同じく反転からゴールを狙うなど、攻撃陣は得点への意欲を強く押し出した。が、人数をかけて守ってくるシンガポールもしぶとく、簡単にはスペースを与えてくれない。中盤の柴崎と長谷部もタテへの勝負パスを数多く使って決定機演出を試みるが、なかなかうまくいかなかった。
前半最大のビッグチャンスは27分に宇佐美、31分に岡崎がそれぞれGKと1対1になったシーン。前者は柴崎のスルーパスに反応した宇佐美が相手DFの背後に抜け出した形だったが、J1得点ランキングトップに立つ男は重圧からか決め切れない。後者も本田→宇佐美→岡崎とつながったが、岡崎のシュートはGK正面。テクニカルエリアで戦況を見つめていたハリルホジッチ監督も苛立ちの様子を隠せなかった。
相手が自陣を固めてくる状況ではリスタートが有効。前半の日本は香川が左CKを4本、太田が右CKを1本蹴ったが、これもモノにはできなかった。前半0−0というスコアにスタンドのサポーターからブーイングも浴びせられるほどだった。
停滞感を漂わせたまま後半も戦い続けるわけにはいかない。ボスニア・ヘルツェゴビナ人指揮官も選手たちにカツを入れたに違いない。残り45分間での攻めの加速は日本の至上命題だった。が、後半に入ってからもインテンシティーが上がらない。開始7分の宇佐美の強引な左からのシュート、10分の太田の左クロスからの岡崎のヘッドも決まらない。業を煮やしたハリルホジッチ監督は15分が過ぎたところで香川を下げ、大迫勇也(ケルン)を投入。前線を2トップにして猛攻を仕掛けようとする。けれどもシンガポールの堅守は崩れず、後半23分の太田の絶妙の右CKからの決定機も本田のドフリーのヘッドをGKに弾かれてしまう。この直後にも本田のクロスに反応した槙野のヘッドがサイドネットに飛び、本田の直接FKもクロスバーを叩くなど、とことんまでゴールに嫌われ続ける。ここまでの大苦戦を指揮官も選手たちも想像しなかっただろう。
ハリルホジッチ監督は柴崎を下げて原口元気(ヘルタ・ベルリン)を起用。システムを4−1−3−2とリスクを冒して攻めに出る。それでも点が取れないと見るや、今度は宇佐美に代えて武藤嘉紀(FC東京)を投入。残り10分以上を残した段階で3枚目のカードを使い切る猛攻撃に打って出た。
それでも時間は刻一刻と過ぎていく。本田も強引に中に入ってゴールへ突き進むがどうしても1点を奪えない。終盤には何度もCKのチャンスがあったが、前回3次予選初戦の吉田のようなミラクル弾は生まれない。ここまで順調に来ていたハリルホジッチ監督率いる新生・日本代表が、まるで1月のアジアカップ(オーストラリア)に戻ってしまったかのような重苦しい戦いぶりを見せてしまった。
結局、日本は最後の最後までシンガポールに守りきられ、0−0で終了。シンガポールの選手たちがまるで勝ったかのような喜びを見せる傍らで、本田ら日本選手たちは呆然とするしかなかった。試合後には「みっともねえよ」と罵声も浴びせられ、選手たちは沈痛な面持ちを浮かべていた。ホームの重要な初戦をドロー発進という厳しいロシアへの一歩を強いられた。このような試合運びを続けていたら、最終予選進出も難しくなるかもしれない。9月以降のゲームでは、今回の二の舞は絶対に避けてもらうしかない。彼らには決定力アップを肝に銘じて、飛躍を期してほしいものだ。(元川 悦子)