88分、梶川の蹴った左CKを、畠中がヘディングで合わせる。ボールは左ポストを叩いて、転倒していた徳島の選手の下へ。当てるのに精一杯でうまくクリアし切れなかった先にいたのは…意外な男だった。
内田達也。普段はCKの際、攻め残る相手のケアを自陣で行う役目だ。それがこの日は、ゴール前でこぼれ球に反応していた。「引き分けならヤバいと思った。これまでゴール前に行こうとして監督に止められたことが何回かあったんだけど、遠いサイドだったからか、言われなかった」。そして内田の目前に来たボール。相手より一瞬先に、ボールをゴールへと押し込んだ。喜びを爆発させて、ダッシュする。振り返ると、駆け寄ってくるチームメートたちの笑顔が見えた。
周囲に言わせれば、内田は「このチームをずっと支えてくれた人」(安西)だ。全体のバランスを整え、バイタルエリアへの進入を許さない。解説者には“彼がいなければこの順位にいない”とも評される。
ただ、今季序盤の内田は“できないこと”にフォーカスして頭を悩ませることも多かった。それが途中からは、“できる限りをやって、それでも難しかったら仕方ない。とにかくやれることをやる”と考えを変えた。だからこの日も、「押されっぱなしの90分」と感じながら、守備で我慢しつつ、勝機をうかがっていた。その結果、彼の下に、いや一番の殊勲者の下に、ボールがこぼれてきた。
古傷のひざをケアして、1、2を争うほど帰宅の時間は遅い。再受傷の不安もあろう。チームの完成度にしても、「攻撃は良さが出なかったし、まだまだ」だ。それでも彼が中央に構える守備には、簡単に崩されぬ自信がある。彼いわく「初めて試合に出続けた1年」。その集大成は、難敵そろうJ1昇格プレーオフに待っている。(文・田中 直希)