ロンドン五輪とロシアW杯が示す“道”
W杯を迎えるにあたり、監督交代に揺れた日本。果たして、西野朗監督が具体的にどんなサッカーを志向するのかまだ見えない段階で、吉田麻也は自身の経験を踏まえてこう語っていた。
「僕の感覚では、日本が世界を相手に戦うには、やっぱり“あの戦い方”を基本にするしかないと思う」
“あの戦い方”。それは自身が主将を務め、ベスト4まで勝ち上がった12年のロンドン五輪代表が見せたサッカーだった。
最前線に攻守でスピードを発揮できる永井謙佑を置き、トップ下にこちらも攻守でフル稼働できる東慶悟、左右アタッカーにはシュート力のある大津祐樹とパスもキープもできる清武弘嗣が構えた。[4-2-3-1]の布陣は、守備時は[4-4-2]気味になり前線から2枚のFWがファーストDFとして機能。プレスをかわされても攻撃選手は素早く帰陣し、全体の陣形を常にコンパクトに維持する。選手同士の距離感が適度に保たれることで、攻守両面で数的優位な状況を作りやすい。それがすなわち、日本人が世界と伍する上で必要な連動、連係を促進し、組織的なサッカーへと昇華した。
ロシアW杯で見せた、日本の戦い方と比較してみる。選手個々の細かい特徴は異なるものの、初戦のコロンビア戦からラウンド16のベルギー戦までの4試合をとおして見せたサッカーは、6年前の五輪出みせたコレクティブなスタイルと重なる部分がある。
大迫勇也と香川真司の二人が、時には球際にプレスを、時には敵と敵の中間ポジションをとりながらパスコースを消す守備を繰り返す。それはロンドン五輪で永井や東がとった立ち位置でもあった。敵のボールがサイドに展開されれば、乾貴士や原口元気が即座に相手にフタをし、かわされても素早く戻り、後方の選手を助ける。さらに長谷部誠と柴崎岳の両ボランチもサイドの守備に参加し、サイドハーフ、SBとともにタッチライン際で数的優位を作り出す。これもまた、あのロンドンの地で日本が見せた組織的な守備と酷似していた。
10年南アフリカW杯のときのような引いた守りではなく、組織的かつ積極的な守備でボールを奪いにいく戦いで一定のパフォーマンスを発揮できたことは、日本にとっては確かな手ごたえとなった。
ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督はボールを奪うとパスを細かくつなぐことを奨励せず、縦に速く攻めたがった。その形がベルギー戦の原口のゴールで生かされた。縦方向のプレーが選手の体に染みついていたことは、スピード&フィジカル重視になってきている世界の潮流を考慮しても、大切な要素だった。
一方で、縦に速い攻めだけではなく、マイボールになればしっかりポゼッションしながら攻めていく時間帯も創出。そこに西野監督や選手、すなわち日本人の志向がハッキリと表れていた。これまでの日本サッカーのスタイルを考えれば、あらためて無視することはできない現象だった。
選手たちが闊達に意見をぶつけ、最終的に西野監督が決断したサッカー。それはやはり、攻守両面で数的優位を作り出すサッカーだった。もちろん短い期間でのチーム作りだったため、戦術のディテールを詰め切れていないところも散見した。それでも、今大会で日本が見せた戦い方、その大枠は日本サッカーの今後の基盤にすべきものである。何より、ロンドン五輪とロシアW杯での躍動が、それを証明している。(文・西川 結城)
必要なのはコンセプトとプランに沿った強化
西野朗監督が限られた時間でベスト16に進出するチームを作り上げたことは素直に高く評価するべきだ。ただ、その成功の要因を選手間でコミュニケーションをとれたこととして、日本人監督にこだわった方針に舵を切るのは危険だと考える。
本来、代表監督に求められるのは4年間のサイクルを見据えて方向性を打ち出し、チームを伸ばしていくことだ。その過程にメンバーの選考と予選があり、その先に最終メンバーの絞り込みと本大会の準備がある。日本人監督ではいけないということはない。ただ、日本代表が世界の流れに遅れをとることなく成長曲線を描いていくために必要な明確なプランの引き出しをもつ監督でないと、チーム作りそのものが暗中模索になってしまう。
すべての代表候補が世界トップリーグで各国の代表クラスとしのぎを削るような環境にいるなら、そのときに好調な選手をセレクトして並べるというのも一つの方法だが、4年後に主力を担う大半の選手は現時点でJリーグにいるか欧州でもステップアップの過程にある。そうした選手をベースに、ある程度ラージファミリーで継続的に強化していくには選手の個性や選手間のコミュニケーションに依存するのではなく、チームのコンセプトとスタンダードを示す必要がある。でなければ4年間のかなり早い段階から経験のある選手たちで固まってしまうだろう。
もちろん、西野監督とロシアW杯のメンバーが世界を相手に披露したプレーは今後候補になる選手たちも見ていたはずだ。積極性と個人の質、チームの連係意識が見事にかみ合えば、“格上”の相手にも日本が主導権を握る時間帯を作り、そこから得点チャンスも生み出せることは可能性として提示された。ただ、そうしたパフォーマンスを指標とするにしても、例えば乾貴士や香川真司がいなければ成り立たないのでは先細りしていくだけだ。方向性を示した上で、この選手を入れたほうがクオリティーが上がるといった個々の違いは問題ないが、4年間のベース作りの段階で、誰が入るかでサッカーが変わってしまうような状況が生まれるのは望ましくない。
また、20年には東京五輪がある。今回のW杯ではリオ五輪世代の選手が一人もロシアのピッチを踏めなかった。次は東京五輪の世代から一人でも多くA代表に定着することを期待すると同時に、よりチームの骨格を担うべきリオ五輪世代の選手たちがどう経験を積んでいくべきかについても考えていくべきだ。
当然、ここから2年間は東京五輪に関心が向くが、その間のA代表の強化がおろそかになってはいけないし、それはカタールW杯に向けて大きなマイナスだと認識しておく必要がある。(文・河治 良幸)