ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、あえて日本を否定することからスタートした。
今回の合宿ではミーティングで昨年のブラジルW杯や今年のアジア杯の映像を用いながら、いまの日本のサッカーが内包する甘さを指摘。それは、これまでの意識をまずは“劇的に”変える必要があるという志向の裏返しでもあった。
昨年11月、ミラノで本田圭佑を取材した際、こんな話になったことを思い出した。
「ペップ(ジョゼップ・グアルディオラ監督)のバイエルンは、バルセロナ時代より縦に速いサッカーになった印象だけど、速いだけじゃなくてさらにプレーも正確。トップスピードであれだけ精度が高いパスや突破を繰り返しているところに、現代のトップと言われている理由があると思う」
速さも精度も両立したサッカーのバイエルン・ミュンヘン。一方、現在、香川真司がプレーするドルトムントは、精度の点では落ちるものの縦への速さは共通した戦術だ。激しくプレスを掛け、そこから縦を、相手の裏を突くスタイルで、ここ数年はドイツや欧州の舞台で輝いた。
本田はウズベキスタン戦後、新たな戦術が以前の自分たち、つまりポゼッションに傾倒するスタイルを否定していると認めた。「以前を否定することから入っているところはある。でも、間違いを認める勇気は持っている。それで前進してきたつもり。新しいモノを試行錯誤しながらトライしていく。その過程であることは間違いない」
また香川は今回の代表で、普段ドイツで味わっている感覚に近いプレーがあったという。
「縦への意識、3人目の動き、裏への飛び出し。そこは監督がすごく要求した。みんなこの短期間で意識は高くなっている。あとは精度とタイミングと判断。それを正確にしていけば、もっと良いサッカーになる」
代表経験の浅い選手たちは、このサッカーをスポンジのように吸収していくことができるだろう。一方、経験豊富な彼らには欧州で歴戦を重ねてきたことで得た柔軟性と対応力が備わっている。「プレーに正確さを求めていくからといって、スピードを落とすことではない。監督は最高のスピードを求めていくと思う。トライしていく楽しみがあり、新鮮」。スピードには難があると言われる本田も、自分のプレーの引き出しを駆使し、このサッカーに向き合おうと前を向く。
ハリルホジッチ監督が投与する薬は、日本にとっては劇薬でも世界では普通の処方箋。強豪国と伍して戦うために。選手たちは新たなスタイルへの順化にいま、励もうとしている。(西川 結城)