新指揮官の掲げたキーワードは、「シンプルに」という文字どおり簡潔なモノだった。
開始2分のFKでその哲学の一端が表れた。敵陣に入ってすぐの遠い位置だったが、野上や森本を前線に上げる。松下のキックを野上がゴール前に折り返し、黒津が飛び込む決定機。「ゴール前にボールがないと点は取れない。人数を掛けてチャレンジしよう」(中田監督)。確率の問題として、そこからパスを何本もつないでゴールを目指すより、ゴール前にヘディングの強い選手を並べてスタートし、ボールを入れて何かが起こることに期待するのは理にかなう。
流れからの攻撃もシンプルだった。最終ラインがボールを持つと、まず前を見る。前線が裏を狙って走り出せば、迷わずロングボールを送った。4分には野上のフィードに小池が抜け出してシュートを放ち、16分にも森本のフィードに抜け出した小池がCKを奪った。サイドからの攻撃も「クロスを上げられるなら上げる」(中田監督)。生真面目な右SBの市村は、「絶対にボールを下げない」と決めていた。今までなら戻して作り直していた状況でもアーリークロスを愚直に上げ続ける。クロスが入ることが分かっているから、ゴール前には常に3、4人が準備していた。
この試合に先立ち、選手会長・内田の呼びかけで決起集会が行われ、苦境を脱するためにどうするべきか意見をぶつけ合った。そこで出た戦術的な要望が新指揮官に伝えられ、それを織り込む形で練習は進められたという。「自分の理想のサッカーもあるが、それをやる時間はない。選手が迷いなくやれるように、頭の中をクリアにさせて臨んだだけ」という中田監督の言葉もまた、自賛より謙遜が多めではあるが、チーム作りをシンプルに表していた。(芥川 和久)