試合は後半ロスタイムに入っていた。引き分けなら天皇杯に続きタイトルの可能性がもう一つ消えてしまうかもしれない中、カイオの蹴ったボールがゴール前を通過し自分の目の前に流れて来ても、鈴木優磨は慌てなかった。「必ず流れてくる」。ストライカーの本能はそう告げていた。最後までボールをよく見て左足を合わせる。強く振り切るのではなくゴールへのパス。シュートは必死に戻ってきた菅野に当たるも、柔らかい軌道が奏効し、ボールは菅野とともにゴールラインを割った。咆哮する19歳のルーキー。選手やコーチが次々と折り重なっていった。
ゴール前での落ち着きを鈴木優磨に教えたのは、鹿島歴代1位と2位の得点数を誇る二人のストライカーだ。下部組織では長谷川祥之から、トップチームでは柳沢敦から手ほどきを受けてきた。最近では“柳沢塾”でシュート練習を積むのが日課。子供のころに憧れた選手からのアドバイスに「うまく吸収できている」と目を輝かせる。さらに刺激を与えるのが金崎の存在。一度相手に体を当ててからそのままボールを流すプレーは金崎そのもの。「自分が目指す理想の上にあるのが夢生くん(金崎)のプレー。謙虚な気持ちで聞いて、見て、学んでいきたい」と話す。
「全員がチームのために献身的に犠牲心を持ってプレーすれば自然にチームは良い方向に行く」と、いまでは鹿島の哲学を語る。熊谷浩二(ユース監督)に鍛えられ、長谷川と柳沢からFWとしての薫陶を受け、石井正忠に開花を促された、鹿島の純正ストライカー。その可能性は底知れない。(田中 滋)