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AFC U23アジアカップ 準決勝
1/26(火) 22:30 @ アブドゥラービンハリファ

U-21日本
2
1 前半 1
1 後半 0
試合終了
1
U-23イラク

Column 試合後コラム

手倉森ジャパン、成長の軌跡/AFC U-23選手権2016準決勝 イラク戦

2016/1/29 6:00

Photo:© JFA

サッカーが持つ、もう一つの美徳

「それにしても、勝負強くなったね」
 試合後の取材エリアにて思わずそんなことを口走ってしまったのだが、それを聞いたDF遠藤航も微笑みながら「いや、本当にそうっすね」と返してきた。

 トーナメント戦を勝ち残ったチームに関して、しばしば「一戦一戦、力を付けて」なんて言い方をすることがある。筋力や技術、あるいは知力にしたところで数試合の経験でジャンプアップすることなどあるはずもないのだが、それでも当事者たちが「力が付いた」と感じることはあるものだ。今回の手倉森ジャパンは「本当にそんな感じ」(植田)で力を蓄え、雄飛したように見えるチームだった。

 チーム立ち上げ直後、ほぼ「自分が選んだわけではない」選手たちで臨んだ14年1月のAFC・U-22選手権。手倉森誠監督が目撃したのは、自身のサッカー観と照らし合わせると、大きなクエスチョンが浮かぶ光景だった。

 試合の流れに流されるまま、良い流れのときは良いプレーをして、悪い流れになると濁流にのまれるように崩れていく選手たちの姿だった。確かなポテンシャルを持ちながらも、どこかチグハグ。ほとんどがJクラブの下部組織育ちで、主導権を握って勝つことを美徳として叩き込まれてきた新世代の選手たちは、逆に主導権を握れず、“自分たちのサッカー”が表現できなくなると、驚くほどの脆さを見せた。

 彼らがU-19日本代表としてアジアに散った12年秋の映像も観ていた指揮官は、彼らの世代が持つ独特の弱みを再認識。チームコンセプトとして「柔軟性と割り切り」という言葉を掲げることになる。「MovingFootball」みたいなカッコイイ標語ではなく、むしろカッコ悪く、泥臭く戦うことを、サッカーが持つ、“もう一つの美徳”であることを教えていこう。そういう試みだった。

選手たちに芽生えた耐久の哲学 まず一つは“柔軟性”。

 ある形にこだわって戦うのではなく、複数のシステムを使い分けることを教え込んだ。相手に合わせてシステムを選ぶ、あるいは試合の流れに応じてシステムを変更するためには、選手には戦術的な“幅”が求められることになる。[4-3-3]の右ウイングと、[4-2-3-1]の右MFは似ている役目なのだが、ちょっと違う。その“ちょっと”を、特に守備面で強くこだわらせた。勝つために複数のシステムを持つチームにしていくことは、必然的に選手個々の戦術的な思考力を鍛えることにもつながっていく。

 相手の分析も重んじた。近年、育成年代では勝利至上主義の排除を謳って、「相手の分析はしない」、「相手に合わせることはしない」とする指導者が増えており、それは一概に悪いことではないのだが、結果として「相手に合わせることができない」、「相手の弱点を突くという発想がない」選手も増えてしまった。“良いサッカー”、“自分たちのサッカー”をすることが第一の目的としてあって、その結果として後から付いてくるものが勝利である。そういうサッカー観に対して、手倉森監督は「勝利から、ゴールから逆算して考えよう」と訴えかけた。

 強調したのは“相手を見ること”。それは観察であり、洞察である。心理状況も含めて、相手の強みと弱みを察してサッカーをすること。勝つためには当たり前なのだが、サッカーというスポーツが自分本位のものではなく、相手あってのものであることを再認識させた。遠藤は「いまは、相手のアンカーの横がちょっと空いているなとチーム全員が自然と考えられるようになった」という言い方で、積み上げてきたものの効用を強調する。

 もう一つは“割り切り”である。「うまくいかないときがあるのが、サッカー」(遠藤)である。やりたいサッカーをやらせてもらえないこともある。スカウティングの内容がピッチに反映されないこともある。コンディションがどうにも上がらないときもあるだろう。そういうときに、手倉森監督は「割り切ること」を叩き込んできた。

 たとえば、イラク戦。相手の1トップにボールが収まってしまう流れがあった。本来はつぶしておきたいのだが、どうもうまくいかない。そこで闇雲に1トップを消しに行くと今度はほかのポジションが破綻する。ならば、「収まるのは仕方ないので、落としたあとにボランチの裏に入られないようにしようと割り切った」(遠藤)。いわば100点の守備から80点の守備に切り替える行為。それは完璧に相手を抑えなくても「失点しなければいい」という割り切りであり、ゴールから逆算しての結論でもある。

 イラク戦を観ながら手倉森監督は「耐えるところが分かってきたな」という感慨を覚えていたという。後半にあったイラクペースの流れ。無理に主導権を奪い返しにいくのではなく、「ここは耐える時間帯」(遠藤)と脳のスイッチを切り替えるのだ。 指揮官が強調してきたのは、「やれないのなら、やらせるな」という方法論であり、「我慢していれば流れは来る」という耐久の哲学。平たく言ってしまえば、「守りばっかりになってもいいじゃん。そのうち何とかなるさ」という楽天主義の手倉森イズムである。

 来たるリオ五輪でも、この発想は不変だろう。柔軟性と割り切りの手倉森イズムをコアにした新世代の日本代表が世界舞台に挑むこととなった。 ( 川端 暁彦)

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