異変を感じたのは磐田戦前日、11日午前9時の定例会見だった。会見前にクラブの広報から「家族の体調不良もあって、質疑を手短に済ませたい」との要望が取材陣にあった。普段はハイテンションで饒舌に語るミルトン・メンデス監督が、いかにも沈痛な様子で声のトーンも低い。そしてこちらからの質問と無関係に「健康だけはいくら私が気を付けていてもコントロールできるものでない」というコメントが返ってきた。
クラブハウス内ではスタッフが小声で会話をしており、広川邦生強化部長も強張った顔で行き来している。そういう状況を考え合わせると健康云々のコメントが退任に向けたある種の“伏線”なのかもしれないというところは察することができた。
メンデス監督で大丈夫か? そんな記者の疑念は接する機会が増えるごとに深まっていた。就任会見、新体制発表会のプレゼンテーションは見事だったが、いざ試合前後に戦術、プレーについて問うと具体的な答えが返ってこない。言葉数は多くとも、精神論や同じ内容の繰り返しで具体性が伴わない。選手からも「怒られても何を言っているか分からない」、「疑心暗鬼でプレーしている」という声は出ていた。そういった手腕への失望から、寺坂利之GMを筆頭とするクラブの幹部も退任へのレールを敷くことになったのだろう。
瀧川龍一郎社長は「ご家族の健康上の問題」、「成績と辞任は関係ない」と“辞任”の経緯を説明する。しかし家族がそもそも誰なのかについては「プライベートなので説明は控える」と明言を避けた。現段階でその真偽を確かめる術はない。ただ、自発的な辞任の強調は、相次ぐ人事の迷走について、任命権者が責任を取る意思を持っていない現実を意味している。( 大島 和人)