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[熊本]「責任が大きくなるほど、僕は結構強いですよ」FW 36 巻 誠一郎(ロアッソ熊本)/インタビュー③

2016/5/13 15:33


Photo: Takashi Iseri

――今後の支援活動について考えていることはありますか?
「避難所では、多くの人に『(試合が)始まったら見るよ』と言っていただいたので、普段以上に気持ちを入れて戦うこと、プラスαを見せる義務、責任があると思っています。それ以外では、『また来てください』と言われたサッカー教室を継続的にやっていきたいですね。避難所では、サッカーを見たことのない人からも『あんたは見たことあるね』とか、『握手をして会話するだけでも励みになる』と言われるんですよ。継続的に会いに行くことで、現地のいまの状況や避難生活をしている人たちの気持ちを感じられて、それをまたエネルギーにできる。その中で僕らができるアクションがあるのではないかと思います。それはサッカーとは少し離れたところなので、『そこまでやる?』とも言われるかもしれないですけど、僕はできるだけやっていきたいと思います」

――その原動力は何でしょうか?
「僕は熊本で生まれて、育った、熊本の人間なんですよ。避難所で会って、目を合わせて、握手して会話をすれば、親戚とか近所のお兄ちゃんみたいな感覚で接してくれる。そうなると僕も普通の感情でなくなるというか、『やらなきゃいけない』ではなくて、自然に『行かなきゃ』という気持ちになります。もう、反射的に体が動くというか、理由なんかいりません。ものすごく体力を奪われるわけでもないですし、話をするだけで喜んでくれる人がいるなら、行けばいいと思っています」

――そういう思いは、サッカーで培ってきたことも関係していますか?
「それは大きいと思います。サッカーはチームメートがいて、支えてくれるクラブスタッフがいて、多くのボランティアさんがいて、サポーターがいて…、サッカー好きな人たちがいて成り立っています。そういうのと同じで、周りの人たちへの感謝の気持ちを感じていますから」

――ただ、“巻誠一郎”だからできた、できるのかなとも思います。
「あまり先のことは考えずに、熊本のためになる、良いと思ったことは何でもやっている感じで、思ったほうへ突き進んでいますね。ゴールや出口は考えていないというか、そんなのは(考えなくて)いい」

――地震後、ずっと動きっぱなしで、自分の体のケアや気持ちのケアはできているのかと、少し心配にもなります。
「それはできています。コンディションも良いし、早く試合をして発散したいという思いがたまっていますよ(笑)。自分で言うのもあれですけど、責任が大きくなるほど、僕は結構強いですよ。自分ではそう思っています」

――サプライズで登場した14年の新体制発表会見では、「選手としての価値をもう一つ上げたいんだ」と話していましたが、選手としてだけでなく、人としての価値もグンと高めたように思います。
「(そういったことについては)何も考えてないです。でも、現状や現地の本当の声を発信していかないといけないとは思います。地震から3日目、4日目にはもう、熊本の中でも普通の生活に戻っている人もいました。そうやって被災地の情報が減っていくのは良くないなと。避難所を回っていると、『この先、生きていけない』という人もたくさんいるし、『どうしていいか分からない』という人も多いんです。発信できる人が発信していかないといけないし、継続的に支援が必要な人がまだたくさんいます。だから現地の声を発信することだけはやっていこうと思います。そういうエネルギー、余力はまだ、ありますから」

――休みなく動いていて、やつれたのではないかという印象もありますが、本当に大丈夫ですか?
「大丈夫ですよ! 最初の1週間くらいはキツかったけど、いまは食事もしっかりとれるようになっていますし、体重も減っていません。僕もプロだし、その辺はちゃんと考えています。『やる』と言ったらやるし、コンディションも抜かりのないようにやります」

――もし、熊本にいなかったらということを考えますか?
「それは考えます。でもね、このタイミングで熊本にいたのは、絶対に運命だと思っています。復帰戦の相手が千葉だというのもそうだし、なんかね、『お前がやれ! 』と言われてるんだなと、勝手に思っています(笑)」

――その姿勢や考えが、また若い選手たちも引っ張るんでしょうね。
「(若い選手たちには)『現地へ行って、声を聞いたほうがいいよ』と言っています。被害の大きいところを見るだけでも、『やらなきゃ』という責任感が出ると思います。地震は起こらないほうが絶対良かったんですけど、起こったんだったらもう、それを何かプラスの力に変えるしかない。これからのサッカー人生にも、サッカーではない人生にも、絶対、プラスに変えられる部分があると思います。そんなに簡単なことではないですけど、それを伝えていかないといけないし、サッカーに置き換えて思いを表現しないといけないと思っています」


巻 誠一郎(まき・せいいちろう)
1980年8月7日生まれ、35歳。熊本県宇城市出身。184cm/81kg。小川中→大津高→駒澤大→千葉→アムカル・ペルミ(ロシア)→深セン紅テン(中国)→東京Vを経て、14年に生まれ故郷のクラブ・ロアッソ熊本に完全移籍で加入。J1通算207試合会場53得点。J2通算147試合出場12得点。元日本代表。

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