試合前の出来事だった。主将の小笠原がチームに呼びかけた。
「ここでバラバラにならないのが鹿島。一つになってやるのが鹿島だし、やれるのが鹿島」
この言葉で選手の気持ちがグっと高まる。ただ、厳しい状況になれば気を引き締めるのは主将の常。さらに気持ちを高めたのは、信頼を失いつつあった男の一言だった。
「今日、負けたら終わる。僕もチームのためにプレーする。無駄なキープとかもしない。みんなでもう一度結束して勝って帰ろう」
神妙なカイオの姿に、ミスをしても支え合い全員で戦う気持ちがあらためて共有された。
試合は試練の連続だった。前半は両ボランチが抑えられ30分あたりからゲームを作れなくなった。その流れで後半いきなり失点、すぐに追い付くも、CKから再度突き放された。すでに小笠原は退いており、数分後にはジネイが負傷交代。若手ばかりの陣容。少なくなる試合時間。「負けたら終わる」状況は、目前まで迫っていた。
それでも、誰も勝利をあきらめなかった。「そういう選手は誰一人いなかった」と鈴木。これまで散々外してきたヘディングをその鈴木が叩き込み、86分に同点に追い付く。目に入った総立ちで見守るベンチの姿。それを見たらあきらめるわけにはいかなかった。同点では足りない。昌子は「割り切った」と、ブエノと二人で自陣を守る覚悟を決めた。全員のそうした姿勢が、18日のナビスコカップ第5節・湘南戦(2●3)を裏返したような劇的な逆転勝利につながった。
「自己満足のためにプレーしたことは一回もない。目立とうとするのであれば鹿島を選んでいない」と殊勲のカイオは言う。過去2試合とは明らかに違っていた。そしてそれは、カイオだけではない。“俺が俺が”となっていた彼らが、チームのためにプレーすることを意識した途端ゴールが決まる。やるべきことはなんなのか、これでよく分かったはずだ。 ( 田中 滋)