前半終わり際のCKだった。相手のゴール前に詰めた金崎が怒気を含んだ声を上げた。
「もっとパスを出せよ!」
自分なりの考えがあった西はすぐに言葉を返した。
「出せるくらい、お前らがキープしろよ」
中継カメラにばっちり抜かれてしまったこのやり取りは、一見すると雰囲気の悪さを物語るものに見える。しかし、これこそが最高の状態。
「試合中にも言いたいことを言い合いながらやれている。そういうチームは強い」
そのやり取りを振り返った西は満足そうだった。
かつて鹿島はそういうチームだった。最終ラインが上がらないことにしびれを切らした小笠原が秋田豊に要求。秋田は前から追わなければラインを上げられないと応え、小笠原は前から追う代わりにラインを上げることを求めた。字面にすれば互いを尊重し合った意見交換に読めるが、これを怒鳴り合いながらやっていたのだから周囲はヒヤヒヤしたことだろう。しかし、強いチームはそれを建設的なものにつなげることができる。3連覇した時代も岩政(現・岡山)と攻撃陣との怒鳴り合いは日常茶飯事だった。そしていま、鹿島にその光景が戻りつつある。
しかけたのは西だった。3月最後の練習でリミッターを外して意見をぶつけていく。標的となった土居が、その週末の1st第5節・川崎F戦で活躍。結果こそ引き分け(1△1)に終わったが、あれから2カ月余りが過ぎ、チームは着実に成長を遂げていた。
「良い意味で、我を出す選手が多くなったし、個人個人が成長したと思う」
そう話したのは、同点弾を挙げチームを勝利に導いた土居。先の川崎F戦とは違い、今度は結果を得ることに成功した。
劣勢の序盤には、昌子が激しい口調で金崎にチェイシングを求める場面も見られた。互いが互いを高め合う。5連勝で首位に立とうが、鹿島はまだまだどん欲だ。(田中 滋)