サッカーにすべてを懸けてほしい
―監督ご自身の話もうかがいたいです。まだFC東京での監督期間は短いですが、3年ほど監督を務めた福岡時代の自分と比較して、どんなところが変わったとご自身で見ていますか?
「以前はあまり周りが見えていませんでしたね。(08年は)リトバルスキー監督の下でコーチをしていて、僕がS級ライセンスを取得した次の日に監督に就任したという流れでした。本当に突然で、しかも当時は監督になって中2日か3日ですぐに試合がやってくるという状況でした。もちろん余裕もないし、経験もない。下の世代のカテゴリーで監督業をやってきたという経歴もなかったので、本当に監督という職業自体が初めてでした。自分ではいろいろなことを考えて見えているつもりだったんですけれど、実際にやってみると、いま思えば練習にしても何にしても『うまく機能していたのかな…?』とは思います。FC東京の監督としてはまだ日が浅いですけれど、福岡での経験に加えて(FC東京で)コーチとしての仕事もしてきたので、自分への自信も少しは付きましたし、多少はスムーズにいろいろな仕事に取り組めているなとは思います」
―FC東京に来てからは、コーチとしてポポヴィッチ、フィッカデンティ、城福と3つの体制を見てきました。それぞれの時代の経験をどう生かしたいですか?
「みんな個性や良さがありました。また同じ指導者としてあくまで僕が見た上でのウィークポイントもありました。ただ、全員に言えることは、選手へのアプローチの仕方に特徴があって勉強になったということです。いろいろなバリエーションを見られたことは、今後の監督としての自分にとっては良かったです。あとは、監督が練習で、ある指示を出したときに、『自分はそうではなく、こう思うな』と感じることもありました。もちろんその場でコーチの自分が主張してしまえば、チームはグチャグチャになってしまうのでしませんでしたが、そういう場合は自分の引き出しを増やす作業として取っておこうと考えていました。いつか自分が監督になったときに、その場面に応じた指導をするためにも大事な経験でした」
―監督とコーチでは選手との距離感も異なります。福岡時代と現在では、どんな変化がありますか?
「少し前までは、ちょっと格好付けていたところがあったんですよ(笑)。わざと突き放したりもしましたし、監督だからということであえて何か特別な行動をすることもありました。でも、いまはそうではありません。コーチ時代から4シーズン一緒にやってきた選手もいます。そんな中で僕が監督になったからといって急に態度を変えるなんておかしいですよね。福岡のときもコーチ時代を経験していたんですけれど、いまのほうが(選手と)うまく付き合えていると思います。前はぎこちなかったですね」
―篠田監督がもともと理想とするサッカーのスタイルはありますか? また現状のFC東京ではそこに向けてどうチーム作りをしていくつもりですか?
「アグレッシブにプレーすることが一番です。それは気持ちも戦い方も両方です。選手たちにはサッカーにすべてを懸けてほしいです。J1クラブは環境にも恵まれています。昔とは違って複数年契約を結んでいる選手も多い。確保されている時間が長いことは素晴らしいことですけど、だからといって1日の練習で力を抜いて良いわけはありません。練習に向けての準備もどれだけしているのか。サッカーにすべてを懸けるという姿勢を持ってやらないと、このチームはいつまで経ってもこの順位にいるのではないかと思っています」
―篠田監督のサッカーは、そうした気持ちとプレーの強度が比例している印象ですが、世界的にもプレー強度の重要性が上がっています。技術が大切なのは当然ですが、激しさ、強さ、速さといった要素はメンタル面とも非常につながりがあると思われます。
「そういうタフな部分を表現することが、サッカーの面白さだと僕は感じています。テクニックがある、ないといった違いは選手によっても当然ありますが、基本的にはプロなのでみんなうまいんですよ。では何で差が出てくるのかといえば、強さであり、速さであり、判断力です。走るスピードだけではなくて、判断のスピードも重要になってきます。なおかつ相手がイヤがるプレーをいかにできるか。ボールを奪い合って、ゴールも奪い合う。サッカーは本当にシンプルなスポーツです。きれいに相手を崩そうとしたり、いろいろなパターン練習ばかりをしても、本番ではそう簡単にはいきません。高度なプレーをするにはさらに判断力を上げないといけないし、もっと技術も必要。そこを求めつつも、それ以前にやるべきことがサッカーにはあります」
―海外サッカーなどから影響を受けたりはしたのですか?
「僕自身はアルゼンチン(のサッカー)がずっと好きでした。シメオネ(アトレチコ・マドリー監督)は選手としても監督としても好きですね。幸い、現役時代にアルゼンチンの指導者から教わる経験もありました。オルギンという福岡ブルックス時代の監督もいましたし、パチャメやピッコリもアルゼンチン人でした。さらに選手ではウーゴ・マラドーナやトログリオと一緒にプレーして、ビスコンティもマリノスから移ってきました。とにかく周りにはアルゼンチン人が多かったんですよ。言い方は悪いですけれど、彼らのプレーは時に“汚い”ですよ(笑)。でも、それは“勝利やボールへの執着心”と言い換えることもできます。もう胸が熱くなる感じです。サッカーにとって、この感情は絶対に大事だと思います。アルゼンチンというサッカー強国の選手ですら、こんなに必死になって戦っている。日本人の僕らが影響を受けないわけはなかったですね。(当時の)アビスパは弱いチームでした。でも毎試合、本当に僕は負けたくなかったですし、弱いぶん、勝ったときの喜びは格別でした。もちろん負けたときは、次の練習に集中する。そういうシンプルなサイクルを、選手に味わってもらいたいです」
③へつづく