前半が終わりロッカールームに引き上げていく両チームの姿は対照的だった。シュート11本を放ちながら無得点に終わったマメロディ・サンダウンズは、若干の悔しさが混じりながらも胸を張って戻っていく。それに対し、鹿島は肩を落とす選手が多かった。西が近くにいた土居に声を掛け、すぐに修正点を話し合う。シュート0本に終わったことで“なんとかしなければ”という危機感があふれていた。
ハーフタイム、石井監督は戦術的な修正ポイントを伝えた。慌てずに相手陣内でボールを回すこと、そのために選手同士の距離感を大切にすること。「当然、できる能力のある選手がそろっているので、それができれば落ち着いてボールを回せると思っていた」と指揮官。そこさえ改善できれば、試合を立て直すことはできるという確信があった。
しかし、正しい指摘だけでは試合展開が変わらないこともある。サッカーをやるのは人間。前半の鹿島は明らかに腰が引けていた。監督の指示を実行に移すには、若干の勇気を振りかける必要があった。
そこで小笠原が吠えた。
「こういうところで変な試合はできない。この相手にびびっていたら上に行けない。これからやる相手はもっと強いんだ」
後半、ピッチに戻ってきた11人はまったく別チームだった。
チャンピオンシップを制し7年ぶりのリーグタイトルを奪還したとき、小笠原が示した絶大な存在感が再び光った。選手たちが「いるだけで安心感がある。チームが落ち着く」と形容する、場数を踏んだ者だけが醸し出せる説得力。理路整然と状況を整理する冷静な監督と、熱い闘志を燃やす主将。見事な補完関係が鹿島を勝利に導いた。
ただし、チャンピオンシップとは大きな違いが一つあった。この試合、小笠原はピッチに立っていない。それでも勝てたことは、このチームをまた一つ大人に変えた。(田中 滋)