生かされるだけでなく、生かすプレーも
群馬から今季大宮に加入した江坂任。ルーキーイヤーの昨季、群馬でセンセーショナルな活躍を見せた男の勢いは、舞台をJ1に移してもなお止まることはなかった。リーグ戦8得点という結果以上に大きな存在感を示し、大宮に欠かせない選手に成長を遂げた江坂だが、この1年の結果、内容に満足している様子は微塵も感じられない。飽くなき向上心を持つこの男から来季も目が離せない。聞き手:片村光博 取材日:10月26日(水)
ゴールによって信頼が生まれたことが一番大きかった
――今季を振り返ると、どんなシーズンでしたか?
「チームとしては良いスタートを切れました。FC東京、柏という強いチームを相手に、2連勝で始まれたことがすごく良かったと思います。僕はキャンプでけがをしてしまい、そこには関われませんでしたが、主導権を握られてもしっかり粘って、後ろが無失点で抑えていました。大宮が上位(年間5位)に来ることができたのは、ディフェンス面が相当大きかったですし、最初にその長所が出たのは良かったと思います」
――自身としてはナビスコカップ(現・ルヴァンカップ)・グループステージの活躍から出場機会を伸ばしていきました。
「J2(ルーキーイヤーの昨季は群馬に所属)から来て『どれだけJ1でできるのか』という思いもあって、『J1だと(試合に)出られない』と思われるのもイヤだったので、キャンプから開幕スタメンを狙っていました。その中でけがをしてしまって、もったいなかったとは思いますが、それでもナビスコカップがあって、使ってもらえていました。そこで得点(※)できたことは大きかったと思います」※グループステージ初戦の名古屋戦(1○0)で決勝点を記録
――ナビスコカップでの経験と結果は、やはり大きいものでしたか?
「いま振り返ると、そうですね。リーグ戦は1st第3節のG大阪戦(1●2)から途中出場させてもらっていましたが、短い時間の中で馴染むには難しい部分がありました。ナビスコカップでの出場によって試合勘もできてきましたし、自分のプレーも分かってもらえた部分があります。本当に大きいものでした」
――周りの選手に自分のプレーを分かってもらうという部分では、何がターニングポイントになったという実感がありますか?
「やっぱり、得点を取ったところですね。(ナビスコカップの)最初の名古屋戦でヘディングの強さを見せられましたし、ドリブルも自分の中で手ごたえを得ていました。そして得点に絡むという部分で、自分のことを分かってもらえたと思います。J1で初めて取った点もそうです。(1st第13節の)鳥栖戦(1○0)で点を取ってから変わった部分も絶対にあったと感じます。得点を挙げたことで、周りからの“使ってもらい方”ができたという感じですね。得点を取るまでもボールは出してもらっていましたが、得点を取ってからのほうが多く(パスが)出てきましたし、ゴールによって信頼が生まれたことが一番大きかったと思います」
危機感は常に持っている
――ステップアップとして大宮に来てからの自身の成長はどう捉えていますか?
「群馬ではほぼカウンターサッカーで、一人で行くことが多かったですが、大宮では生かしてもらうような動きを意識してきました。うまい選手がいて、アキさん(家長)みたいに中心選手がいる中で、自分を生かしてもらう。得点の部分でもワンタッチが多くなっていますし、ちょっとずつではありますが、生かしてもらえるようになってきたのかなと思います」
――大学時代はドリブルシュートのイメージが強かったと思います。
「川崎F戦(2nd第12節・3○2)では出せましたけど、それプラス動き出しの部分で勝負したいと思っています。上に行けば行くほど、ボールを持てば体を当てられてつぶされてしまいます。でも、鳥栖戦(1st第13節・1○0)や仙台戦(2nd第9節・2○1)のゴールは、体を当てられないような動き出しができました。ボールが最高だったのはもちろんですが、そういう動き出しはこれからも求めていきたいと思っています」
――得点も重ねて、チーム内での立場も確固たるものに変化してきたのではないでしょうか。
「でも、得点を取っているから試合に出してもらっているようなもので、取れなくなったらすぐスタメン落ちすると思います。来季、補強の影響でスタメン落ちする可能性だってあります。危機感は常に持っていますね。でも、試合に出るとなれば責任を持ってチームに貢献し、結果を出したいと思っています」
――その点では、出番が少ない時期でも常に何かを残す存在感を発揮していたと思います。
「(途中出場で)出るときにはたいてい、同点か負けているときが多かったので、得点を期待されています。絶対にそこで貢献しないといけないと思っていました。時間が短くても、チャンスはチャンス。短いことを言い訳にするのはもったいない。そこでモノにしてこそ上に行けるし、スタメンにもなれるという気持ちはありました」
アキさんは顔に全然出ないからすごい
――得点のバリエーションも含めて、プロ2年間でどれだけ成長できた実感がありますか?
「今季はチームにパスを出せる選手がいるというのもあって、動き出しの部分を意識しだして、リーグでは2点をそういう形から取れました。動き出しを意識した成果はちょっと出たかなとは思っています。手ごたえまではいっていないですが、成長できた部分はあると思います」
――でも、満足はできない。
「やっぱり二ケタ得点は取りたいですよね。一ケタと二ケタでは全然違いますし、相手の見方も変わってくると思います。今季は(J1)1年目だし、ほとんど研究されていなかったはず。そういう意味でも来季はもっとやらないといけないと思っています」
――危機感を持ち続けられている理由はどこにあるのでしょう。
「毎日の練習で、シュートを含めて自分がイメージしているようなプレーができていないとき、イラついてしまうんです。自分のイメージと全然違うと。今日、言われたんですよ。ニシムさん(西村泰彦コーチ)に、『任、元気?』って。『元気は元気なんですけど、納得いかないです』と言ったら、『いいね』と言われました(笑)」
――そのメンタルは昔から?
「プレーが悪かったらそうですね。群馬のときもそうでした。勝っても点を取っていなかったら、機嫌が悪かったですね(笑)。それこそ、点を取っていなくても勝利に貢献するプレーができていればいいんですけど、まだそこまでたどり着いていません。だから最悪、結果が欲しい。点やアシストなど結果を残していかないと、『何してたんやろ』と感じるというか…。試合に勝っても『何もしてないな』と思うときは悔しいですね」
――プロ入りする前からそういうことはあったんですか?
「ありましたね。性格なのかは分かりませんけど…。(流通経済)大学のときは勝っても何もしていなかったらすぐ交代させられていました。それもあって危機感を持っているというのはあると思います。勝ったから次も同じメンバー、とはならないんですよね。その経験はいまにつながっているかもしれません」
――自分に対して納得できないことが多いんですね。
「その点、アキさんは顔に全然出ないからすごいと思います。ホームの横浜FM戦(1st第16節・1△1)でループを決めたときに2トップを組んでいて、前半は『ボール来ないからまったく面白くない』と話していて、『でも、こういうときに点取るから』と言って実際に点取ったんですよ。表に出さなくても、どこかで狙っていたんだと思います。僕はボールが来ないと少しイライラしてしまって、大事な場面でミスをしてしまうので、あれだけ平常心でプレーできるのはすごいと思います。僕はまだ、プレーが悪いときに、点を取ってから良くなっていくタイプなんです。アキさんは悪いときにも悪いなりのプレーができる選手です」
――そういった面を含めて、まだまだ目指すべきものが多いと。
「周囲を生かす動きに加え、生かすパスも出さないといけないと思いますし、そのためにはもっとボールを受けないといけないと感じています。あとは守備のところですね。大宮は後ろが固いと言われていて、ブロックを敷いたら真ん中の2枚は相当強い。1対1もイーニョさん(奥井)やタクくん(和田)は強い。でも、できれば前で(ボールを)取りたいですよね。バルサ(バルセロナ)とかを見ていても、結局は切り替えて奪ってからの攻撃が相当多い。大宮はそれが少ない。後ろで守って、ポゼッションで返すことが多いので、(前でボールを取ることを)やっていくことは大事かなと思います」
江坂任(えさか・あたる)
1992年5月31日生まれ、24歳。兵庫県出身。175cm/67kg。ゆりのき台中→神戸弘陵高→流通経済大→群馬を経て、今季大宮に加入。J1初挑戦のシーズンながらリーグ戦8得点を記録するなど、主力として活躍。来季以降さらなる活躍が期待される。J1通算31試合出場8得点。J2通算42試合出場13得点。