どんな航海になるのか、良い予想と悪い予想の間を漂うことは開幕前の楽しみ。悪い予想はJ2降格で同じだが、良い予想が例年よりも鮮やかに見える。
吉田達磨監督はキャンプ初日からゲーム形式のメニューを取り入れた。吉田監督にとって当たり前のことでも、甲府在籍が長い選手にとっては05年に就任した大木武監督(現・岐阜監督)以来の初日ゲームで新鮮なスタート。練習は試合で起こる局面を個人の部分からグループへと段階的にイメージさせる展開が多く、メニューの工夫とコーチングで選手の向上心を引き出すことに成功している。宮崎キャンプ中の練習試合は3戦3敗だったが、サイドに追い込んでボールを奪うことや裏を狙う意識は浸透している。
吉田監督に対して、アカデミーのコーチ時代を含む柏で魅せた“つなぐ”というイメージを持つ人は多いだろう。そのイメージが正しいとしても、甲府は柏とも昨季指揮を執った新潟とも手札が違い、フルハウスやフラッシュではなく、ワンペア、ツーペアで勝負する立ち位置。昨季の[3-4-2-1]のスタートポジションと[5-4]のブロックで守るというここ数年やり続けてきたことをベースにし、足りない基本や個人戦術の大雑把な部分を整理しながら“達磨カラー”を落とし込んでいる。相手にボールを持たれることを当たり前とせず、積極的に奪いに行くこともその一つ。ゴール前で人数をかけたブロックを作り、カウンターで勝ち点を稼ぐのなら呼ぶ必要はない。チームが変わるために招へいした監督だ。
甲府の立ち位置からすれば、ドゥドゥ、ウイルソンという実績のあるFWを2枚そろえたことは大きい。選手層が薄いポジションはあるが、そこは育成力で大卒ルーキーや中堅を伸ばして競争激化につなげれば、J1残留しか目標にできないシーズンにはならないだろう。そして、最大の興味は監督采配。目指すサッカーをやり切って勝ち点を手にするには熟成の時間が必要だが、それまでをどう割り切って乗り切るのか。監督自身のチャレンジでもある。(松尾 潤)
吉田 達磨(よしだ・たつま)1974年6月9日生まれ、42歳。埼玉県出身。東海大付浦安高→柏→京都→山形→ジュロン(シンガポール)でプレーし、02年に現役引退。03年から柏のアカデミーで各年代のコーチ、監督を歴任し、強化部を経て15年に監督就任。昨季は9月末まで新潟の監督を務めた。