一人のプロフェッショナルとして、慣れ親しんだピッチに立った。
計13シーズンにわたって在籍し、喜びも悲しみも分かち合ってきた横浜FMを向こうに回しても、中村俊は平常心でプレーした。
この日初めて磐田の攻撃に絡んだ10分には、古巣のサポーターから盛大なブーイングを受けた。それでも、サックスブルーのためにゴールを目指し、チャンスを作り出した。34分には同点弾を“演出”している。左CKでアウトスイングのボールを送ると、相手の頭をかすめ、最後は大井がボレーシュートを叩き込んだ。走行距離はチーム2位の11.972km。この日も、チームのために精力的な姿勢を貫いた。
試合後、詰め掛けた報道陣を前に中村俊は「勝つチャンスはあった」と悔しさを滲ませた。そして、チームとして少しずつ前進していることに手ごたえを感じているようでもあった。「改善するところがあって、それを見付け出してそこに向かってコツコツやるのが、このチームの良さ」。
激闘を終えた中村俊は、磐田サポーターへ挨拶を済ませるとロッカールームへ引き揚げた。横浜FMサポーターが陣取るゴール裏へ向かうことはなかった。もしかしたら、それを“寂しい光景”と捉える人もいるかもしれない。しかし、こういう形があったとしても、誰からも咎められるべきではないだろう。
中村俊はプロとして、磐田の一員として勝ち点3獲得のために全力を尽くした。結果は敗戦だったが、勝っていれば2連勝でチームにとって大きな成果だったのだ。また横浜FMサポーターにとっても、応援すべきは相手10番ではなくトリコロールのイレブンだ。仮に中村俊がホームサポーターからも大声援で受け入れられていれば、それはそれで美談だが、中村俊が求めていたのはあくまで勝利である。
その姿はプロフェッショナルそのものだった。彼が日産スタジアムで磐田のためにプレーしたこの90分も、“美しい光景”に違いない。(青木 務)