ようやく、明るい表情が少し戻った。今週の練習場での渡邉千真の様子である。
何を隠そう、待望の公式戦今季初ゴールが生まれたからにほかならない。先週12日の天皇杯2回戦・ブラウブリッツ秋田戦。後半途中にピッチに登場すると、84分、ドリブルで相手DFにしかけていき右足を振り抜いた。ボールがゴールに吸い込まれると、喜びを爆発させた渡邉はゴール裏のサポーターの歓声に応え、最後に左薬指にはめられた指輪にキス。初めて披露した粋なポーズに、渡邉の思いが凝縮されていた。
「いまは一人で戦っているわけではない」
今年4月に結婚した渡邉夫妻にとって、これが初得点だった。彼の得点を多くのファンが待ち焦がれていたが、誰よりも待望していたのは隣で支えていた妻だった。「まだ天皇杯で取れただけ。リーグ戦でも取っていかないと。先発でも途中からでも準備しています」。
「妻の反応は?」と聞くと、「結構普通だった(笑)。でも相当うれしかったと思う」。チームだけでなく、この男にとっても“反攻の始まり”である。新たな男の責任感を胸に、渡邉はゴールを狙う。(西川 結城)
渡邉 千真(わたなべ・かずま)
1986年8月10日生まれ、27歳。長崎県出身。182cm/77kg。国見中→国見高→早稲田大→横浜FMを経て、12年にFC東京に加入。両足でのシュート力が武器。今年4月5日、付き合って2年の記念日に一般女性と結婚。J1通算158試合出場51得点。