ゴールに最も近いCBが1対1でFWにボールを奪われる。にわかには信じ難い場面である。ただ、FC東京のスタイルは“つなぎ”にとことんこだわるパスサッカーだ。それは、前線から積極的にプレスをかける戦い方を得意とする神戸の“大好物”だった。その神戸を体現する“守備のエース”吉田をこの試合で先発させたのは、前線からの積極的な守備でFC東京のパスサッカーを遮断する狙いがあった。「彼が入ると前線からの守備が連動する」(和田監督)。そして吉田は期待どおりに最前線でまばゆい光を放った。
開幕前のキャンプでの負傷で出遅れた吉田。20日のナビスコカップ・鹿島戦で実戦復帰を果たすと、すぐさまFC東京戦の先発に名を連ねた。この試合では吉田がCBを急襲してボール奪取する場面もあれば、彼の動きに橋本、野沢が連動してボールを奪う場面もあった。吉田は試合後に「だいぶ良い位置でボールが取れた」と手ごたえを話した。昨季、神戸を初の一ケタ順位に導いた原動力は、第3節にして早くも復権を果たした。敗れた神戸にとっては、この試合の一番の収穫だ。
試合後の記者会見、和田監督は「非常に見ごたえのあるゲーム。それだけに悔しい敗戦だった」と率直に言葉を寄せた。良い守備が良い攻撃を生む――。アタッキングサードで躍動する新しい神戸の姿も見えた。田中は決意を口にする。「この借りを返すためにも、アウェイのFC東京戦(第32節)が来るまで、しっかり、したたかに。課題を次につなげたい」。
負けてなお、神戸は“強豪”への階段を一つ上った。