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誰も信じることのなかった夢のようなお伽話
レスターの戴冠が、ついに決まった。1884年に創設されたクラブにとって、初めてのトップリーグ優勝。1軍選手の移籍金総額はリーグ17位で、下から数えたほうが早い“持たざる者”レスターがプレミアリーグの頂点に立った。優勝決定後、国営放送『BBCニュース』のインタビューに応じた女性サポーターは「涙が出ないのが不思議。動揺し過ぎて出ないのかも」とコメント。奇跡の優勝に、その目には次第に涙があふれていった。
前評判は決して高くなかった。開幕前の順位予想で、ほとんどの英紙が“降格候補”に指名。ギリシャ代表監督を解任されたばかりのクラウディオ・ラニエリ氏が新指揮官に就任したが、「ティンカーマン(下手な修理屋)」の異名を持つイタリア人の到来は、前評判を引き上げるきっかけにはならなかった。
ところが、シーズン序盤から快走を続ける。開幕5試合を3勝2分の無敗で乗り切り2位につける。しかし1点を取られたら、2点を取り返すという大味な試合を繰り返し、岡崎慎司も「何で勝ち続けているか分からない」と首を傾げることが多かった。転機の一つになったのは、第10節のクリスタル・パレス戦。この試合で初めて無失点で勝利すると(1○0)、ご褒美としてラニエリ監督が市内のイタリアンレストランで選手にピザをごちそうする一幕もあった。
ここから、レスターのプレーが少しずつ変化していく。「イタリア人らしく、守備に重きを置いている」と岡崎が話すように、第13節・ニューカッスル戦(3○0)、第15節のスウォンジー戦(3○0)とクリーンシートの勝利が増えていった。勢い任せから、徐々に堅実なサッカーへと進化していった。
後半戦に入ると戦い方に安定感が生まれ、強豪クラブに完勝する試合が増えていく。第21節のトッテナム戦(1○0)、第24節のリバプール戦(2○0)とトップクラブを次々と撃破していくと、優勝候補と目されたマンチェスターCを相手に敵地で完勝(第25節・3○1)。「いずれ落ちてくるだろう」(『デーリー・ミラー』紙)と躍進に懐疑的な眼差しを向けていたメディアも、この試合の勝利で「強さは本物」と論調を軌道修正するようになった。
快進撃はさらに続く。第29節のワトフォード戦(1○0)からはクリーンシートを続けた上で5連勝──。堅牢な守備に加え、試合巧者な一面も見せ始めて独走態勢を築いた。第35節のスウォンジー戦(4○0)の前には、それまで慎重な姿勢を絶対に崩さなかったラニエリ監督が「優勝を目指す」と初めてV宣言。優勝に王手をかけた5月1日の第36節・マンチェスターU戦(1△1)での戴冠は叶わなかったが翌日(2日)、2位のトッテナムがチェルシーに引き分けたことから、レスターのリーグ制覇が決まった。チェルシー、マンチェスター勢、アーセナル、リバプールのメガクラブたちがそろって不振という追い風もあったが、総じて言うと、レスターこそがウィナー(勝者)に最も相応しいパフォーマンスを見せていた。
勝因はどこにあるのか? 今季、世界的名手へと成長を遂げたイングランド代表FWジェイミー・バーディーやアルジェリア代表MFリヤド・マフレズ、フランス代表MFエンゴロ・カンテの活躍はもちろん大きい。堅守速攻のプレースタイルに磨きをかけたラニエリ監督、上記3選手に加えて日本代表FW岡崎慎司やDFクリスティアン・フックスらの新戦力を次々とヒットさせたスカウト陣の貢献度も高い。だが確実に言えることは、クラブ全体の勝利であるということ。どれか一つ、誰か一人でも欠いていたら、頂点には手が届かなかっただろう。
優勝が決まると、本拠地キングパワースタジアムには次々とサポーターが集結し、「チャンピオーネ!」の大合唱とともに青色のフラッグが揺れた。誰も信じることさえなかった夢のようなお伽話──。人口30万人の中都市、レスターのシンデレラストーリーは最高の形で完結した。(田嶋 コウスケ)