能力が高いことは、誰もが知っている。それでも、日本が窮地に陥る中で、突如ピッチに投入されてはそれまでの流れを一変させ、ゴールまで奪ってしまう。どんな選手にでもできる業ではない。
あまり、心の表情を表に出さない選手だと聞いていた。実際に今大会の間も、柴崎岳は常に一点を見ながら、日々われわれの前を歩いて行った。先発からは外れているため、取材に答える際もコメントは短くシンプル。この若さで、少し近寄りがたいオーラを放つ泰然ぶりだ。
練習ではそんな落ち着きだけではなく、ハツラツとした動きを見せていた。クロス練習にしても、パス回しにしても、止める、蹴るという動作は非常にスムーズで柔らかい。遠藤保仁の後継者として周囲から視線を集めるが、パスの受け手の欲しいタイミングと欲しい場所に、寸分狂わず的確にボールを配っていくプレーは、やはり偉大な先輩のそれを彷彿とさせた。
毎日の練習後の取材ゾーン。必ず初めに出てくるのが若手の植田直通で、その次が柴崎だった。二人とも、寡黙に歩くだけ。『鹿島の選手は雰囲気が似ているね』と、記者陣は話していた。
しかし、実は柴崎はこのとき、グッと何かを堪えていた。
UAE戦後。柴崎が口を開いた。口調は冷静。ただし、珍しく長々と言葉を連ねていった…